積読日記

新旧東西マイナー/メジャーの区別のない映画レビューと同人小説のブログ

■Twitter               ■Twilog

■小説を読もう!           ■BOOTH:物語工房
 
各種印刷・製本・CDプレス POPLS

『ハチミツとクローバー』第4話「彼と彼女が揺れ動く」

ハチミツとクローバー (2) (クイーンズコミックス―ヤングユー)

ハチミツとクローバー (2) (クイーンズコミックス―ヤングユー)

 コミティア帰りということもあって、冒頭のはぐのコミュニケーション不全のストレスを作品にぶつける様に痛ましさを禁じえなかった。そうして出来た作品がどれだけ褒め称えられようと、果たして本人にとって幸せなのかどうか。いや、まだしも幸せなのだよな。望んだとおりの作品として結実させることすら出来ず、ただただ己の魂を傷つけ続けるしかない、孵す術のない卵を抱えたクリエイターたちの哀しみを想えば。待っていてくれるファンがいて、愛すべき仲間たちに囲まれているはぐは、今も孤独な戦いを強いられている我らが戦友達の中では恵まれている方ではあるはずだ。
 そして、理花を巡る男二人の出口のない恋もまた痛ましい。
 無論、一番ずるいのは女の方だ。決して受け入れるつもりもない男達へ、憂いを秘めた表情を向け続けること残酷さを恐らく彼女は知っている。知っていてそれを続けてしまうのは、やはり彼女が女であるからだろう。
 そしてそのずるさも、残酷さも、出口のなさまですべて承知で、その場から立ち去ることの出来ない男たちは馬鹿の極みだ。この馬鹿どもは、時を止めてたたずむ寡婦の美しさに見惚れて、己の時間まで止めてしまったのだ。しかもその己の馬鹿さ加減まで含めて、酔い痴れているのだから始末に負えない。
 この3人は放っておけば何十年でもこのままだろう。
 この閉塞した、しかし強固な3人の関係性の空間を打ち破るのは、生半可なエネルギーと覚悟ではできまい。鉄人のふたつ名を持つ山田さんでも、相当に苦労するはずだ。あるいは彼女もまた、時を止めた者達の輪の中に飲み込まれてしまうかもしれない。
 それでも誰かが、時間を止めて生きることの愚かさを訴え続けなければ、彼等彼女等の凍りついた時間が融けて動き出すことはないだろう。それは山田さんひとりの役割ではなく、森田や竹本やはぐ達、周囲の人々、皆の手助けが必要となるかもしれない。
 あるいはこの物語は、その瞬間に向けて紡がれてゆく物語なのだろうか。
 原作を読まない自分には何とも言えないが、あえて急いで続きを知りたいとも思わない。物語には、それを語るに相応しい時間があるのだから。