積読日記

新旧東西マイナー/メジャーの区別のない映画レビューと同人小説のブログ

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イラク邦人誘拐

 今回誘拐された方は、元習志野空挺団出身でフランス外人部隊を21年勤め上げ、一昨年から英国の警備会社(今流行のPMFって奴ですか)──って、そのまんま冒険小説の主人公みたいな方ですな。この方の場合は傭兵という分野ですが、こんなふうに腕一本で世界を渡り歩いている日本人ビジネスマンは少なくないような気がします。
 それはそれで興味は尽きないのですが、事件発生の状況を仔細に見てみると、今のイラクの治安状況のめちゃくちゃさ加減に頭を抱えてしまいます。
 まず米軍基地を出発した二〇人弱からなる武装した車列(コンボイ)が、待ち伏せ喰らって基地から武装ヘリの救援が来る前に殲滅されている。これは行先が事前に知られいたのなら情報がダダ漏れになっていることを意味するし、あらかじめ基地周辺の主要幹線道に網を張られていたとしたら、それはそれで襲撃側にとんでもない動員力があることになります。
 それに基地の近くという襲撃地点で武装ヘリの到着前にケリを付けたのだとしたら、掛けても30分以内で襲撃を終えていることになる。RPG(対戦車ミサイル)か仕掛け爆弾で先頭車両を潰して、混乱しているそこを一気に自動小銃で撃ちまくって降伏に追い込む。ただし、イラク民兵だけならともかく、戦慣れした傭兵を含む連中がそう簡単に武装放棄に応じるとも思えないから、この時点で余程の戦力差があったか、最初の一撃で人事不詳に追い込まれたかのどちらかでしょう。
 日中戦争時、大陸で日本軍は点と線しか押さえていないと言われていました。「点」は都市で、「線」は線路のことです。この事件は、米軍がイラクで「線」すらろくに押さえていないという有様を露呈しています。
 しかも、この事件の起こったのとほぼ同じ時期に米海兵隊がシリア国境沿いで大規模な攻勢に出て、ゲリラを叩いていた筈なんですね。つまり、どれだけ叩いても完全に焼け石に水の状況になっている。
 どうしたものかな。
 どうもならんなぁ。
 この手の状況下で唯一、打てる手は気が遠くなるほど地道な人身掌握(ハーツ&マインド)戦略の実践しかない。グリーンベレー辺りがそれをやっているという話も聞くけど、一方で捕虜の虐待とか、イラク政府要人を誤射で殺してしまったりと、現場からはそれをぶち壊すような話しか出てこない。先日のイタリア情報部員を誤射して殺してしまった件なんか、貴重な同盟国との関係すら危地に追いやってしまっている。挙句に誰も責任を取ろうとしないんだから、これで勝てる戦争があるなら世界史上の奇跡です。
 まぁ、今の米軍の13万人駐留体制での戦費はどうにか好景気を維持している米国経済にとって耐えられなくもないし、テロリストの金城湯池と化してしまったイラクをこのまま放っておくわけにもいかないわけという事情もある。逆に言えば、今の兵力数では膠着状況を維持するのがやっとということでもあるのですが。
 もっとも、双子の赤字やら、自動車産業のビックスリーが軒並み経営悪化に陥ってたり、市場ではドルの大暴落がいつ起こるかの鞘当が始まっていたりもします。
 最悪、何もかもが──そう、パックス・アメリカーナそのものが、一気に瓦解する可能性を、私たちはそろそろ意識しなくてはならない時期に来ているのかも知れません。