積読日記

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『月刊ウルトラジャンプ』7月号

原作:佐藤大輔/作画:伊藤悠皇国の守護者

皇国の守護者 (1) (ヤングジャンプ・コミックス・ウルトラ)
 <帝国>軍の進撃速度をわずかなりと緩めるために、焦土作戦の実行を決断する新城達。
 戦争映画や機械化の進んだ現代戦しか知らない人間には上手くイメージが伝わらないのだが、歴史のほぼ大部分の時期において、兵糧の現地徴発──ありていに言ってしまえば略奪は、軍隊の作戦行動の中に正式に組み込まれていた。指揮官公認で略奪・暴行・放火が奨励か、少なくとも黙認され、それは歴史上、英雄とされる多くの指揮官の下で行われている。必要悪とみなされていたか、下手をすると一欠けらの罪悪感もそこには存在していなかった節すらある。
 何故、そんなことが起こるかというと、軍隊にとって進撃する最前線部隊の兵馬に、必要な糧食や給水を確実に行うということはいつの時代にも大変な負担なのだ。少なくとも大量の物資を抱えていては進撃速度が遅くなる。勢い、多少のコストで進撃速度が維持できるのなら、指揮官は兵站部隊を後方に捨て置くことを躊躇わない。勿論、この場合の「コスト」は、攻め込まれた現地の住民が払うこととなる。「戦争」というのは、つまるところそういう側面を持っている。
皇国の守護者〈1〉反逆の戦場 (C・NOVELSファンタジア)
 逆に言えば、侵攻軍の兵糧の現地調達が叶わなければ、前線部隊の動きは兵站部隊の到着を待っての動きとならざるえないので、進撃速度が鈍くなる──そこで、本来なら彼等軍人が命を賭して守らねばならない自国領の邑々を、己が手で焼き払う「焦土作戦」が必要となってくる。
 そうした前提条件が上手く伝わっていないと、今回のエピソードでの新城達の苦渋の決断の意義が判りづらくなってしまう。
 その意味で、原作では確か地の文で詳しく説明していたくだりを、実に要領よく会話劇の中に落とし込み、なおかつ任務を命じられた青年士官の葛藤などにまで配慮が行き届いており、小説作品のコミカライズとしては驚くべきレベルの芸を見せてもらった。
 それはそうと、露悪趣味丸出しで心にもない英雄的発言を口にするときの新城の悪党面は、本っ当にいやな奴に描かれているので、原作ファンは心安んじられよ(笑)。