積読日記

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監督:ブライアン・デ・パルマ『ブラック・ダリア コレクターズ・エディション 2枚組 [DVD]』

ブラック・ダリア (文春文庫)

ブラック・ダリア (文春文庫)

ブラック・ダリア コレクターズ・エディション 2枚組 [DVD]

ブラック・ダリア コレクターズ・エディション 2枚組 [DVD]

 公開1週間目のレイトショーだけあって、200席くらいのスクリーンで3割くらいの入り。
 1940年代のLAで実際に発生した猟奇殺人事件「ブラック・ダリア」事件を巡り、愛と友情と陰謀が錯綜する物語。原作はジェイムス・エルロイの同名の出世作で、「LA暗黒の4部作」と銘打たれた作品群の最初の作品。エルロイ作品らしくこの作品も血と暴力とSEXに満ちているのだが、その後の3作よりノイジーな猥雑さは抑え目で、「青年刑事の成長譚」というシンプルで力強い物語構造のおかげもあって、全編通して読むと意外と読後感の爽やかな物語だ。
 とはいうものの、電車のダイヤ並みに編み上げられた精緻なプロットと、炸裂する激情と官能が分厚い頁にぎっしりと詰まった原作を、どう映画の枠に収めるのか。半分諦めモードで観に行ったのだけど、原作の要素を破綻なく2時間でほぼきっちり詰め込んでいて、まずは合格点。さすがに脚本だけで10年掛けただけある。
 原作の時系列をいじり、トリックのネタをすり替え、映像と役者の演技の力を積極的に活用することで細かい説明を省略し、と劇中の情報量を高めるおよそありとあらゆる手法を徹底的に駆使しており、その意味では見事の一語に尽きる。老練なデ・パルマ監督の面目躍如といったところ。
 特に終盤、真実がその重みで自壊するかのごとく、次々と連鎖反応的に謎が暴かれてゆくシークエンスは、まさにミステリ映画の醍醐味といっていい。まぁ、ちょっと詰め込みすぎのきらいもあったけど、スピードで押し切ってのけているのでこれは良しとすべきだろう。なにせこれは映画なのだ。
 
 ただ、原作と明確に違うのが、被害者の「魂鎮め」ともいうべきエピソードが削られている点。
 原作ではすべての謎が解かれ、事件に決着がついた後、主人公が「自分が本当に守らなければならない人」の元へ向かう前に、被害者の故郷を訊ねるエピソードがある。父親を含む周囲のすべての人々から「男にたかるアバズレ」と侮蔑されていた被害者の本質が、純真無垢な魂を持った孤独な少女であったことを確認するエピソードで、無残に殺され、死後も罵倒され続ける被害者の名誉を回復する描写でもある。
 と同時に、嘘と欺瞞に満ちたLAで自分自身を取り戻そう決意した青年が、その前に人間の本質が善であることを確かめずにはいられなかったという必然性も込められている。
 その意味で、被害者だけでなく事件に関わってしまった主人公の「魂鎮め」でもあるエピソードなのだけど、映画ではそこがさっくりとカットされ、逆に最後の最後に主人公が遺体を幻視してしまうことによって、これからの人生にこの「死」が翳を射し続けるであろうことが暗示される。
 これは単に尺の問題だけではなく、監督のインタビューによると意図的に行われた演出であるらしい。「魂鎮め」などありえない。死者の怒りと悲しみはその後もさまよい続け、ハリウッドの住民の心にとりつき、こうして繰り返し映画化もされる。そして、そうした事どもの積み重ねが「生」であり「人生」なのだという、デ・パルマ流の死生観がそこにはにじみ出ている。
 その意味で、決定的なポイントで原作との相違点が存在したりもするのだけど、おおむね全編に渡って原作と40年代のハリウッド文化へのリスペクトに満たされた作品。役者も美男美女揃いだし、何より男くさいハードボイルドを装いながら、「女性」をこれほど大事にしている映画も珍しい。
 主人公と相棒のホモ・ソーシャル的な関係とか、女性受けしそうな映画でもある。
 デート・ムービーとしては、打ってつけだと思うんだけどな。
 ……いや、ひとりで観に行きましたけどね。相手いないし(泣)。