佐藤 優『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)』
- 作者: 佐藤優
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2007/10/30
- メディア: 文庫
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勿論、一方の当事者の手による手記なのでその辺のバイアスは織り込んで読む必要はあるのだけど、それでも非常に冷静な筆致なのに驚かされる。
一方的に「あいつらが俺を陥れたんだ」というのではなく、日露国交交渉を背景としつつ、外務省、官邸、自民党のそれぞれの内部での壮絶な抗争劇が絡み合い、行き着く果てが著者と鈴木宗男氏の逮捕・起訴であったという「構造解析」を実に冷静に行っている。言いがかり同然の理由での長期拘留の上、現在、裁判闘争中という立場にありながら、である。
これを見ても、外務省が千金を積んでもなお得難い人材を失ってしまったことをいち国民として非常に残念に思う。
と、同時に、国家のハイレベルでの外交政策や戦略について、市井の人々にこれほど判りやすく解き明かしてくれる人物が現れてくれたことは、日本人としてとても幸運なことであるとも言える。
北朝鮮の拉致問題を見れば明白だが、日本のような民主主義社会──いや、大衆社会にあっては、国民のコンセンサスを得られない政治や外交政策は維持できない。日本外交の迷走の根幹は、外務高官の腐敗だとか、官邸の場当たり的な外交戦略を責めるより前に、国民のコンセンサスそのものが迷走していると認識すべきなのだ。
だから、本書のような本をより多くの人が読んで、議論すべきなのだ。著者の意見に賛成でも反対でもいい。その議論の果てにこそ、初めて、日本人が自ら守らねばならないと自覚する「国益」の姿が見えてくるのだから。