積読日記

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高橋裕史『イエズス会の世界戦略 (講談社選書メチエ)』

イエズス会の世界戦略 (講談社選書メチエ)

イエズス会の世界戦略 (講談社選書メチエ)

 実はこの7月に縁があって明治大学で学生さん相手に「印刷技術と社会変革」をテーマに講義してきたのだけど、そこでもちょっとだけイエズス会の活動について触れたということもあって、前々から気になってた本なので購入。
 これも新古書店だったので安かったので。
 
 で、日本ではフランシスコ・ザビエルなんかで知られるこのイエズス会なのだけど、当時最先端のメディア技術であるグーテンベルグの印刷機を布教と諜報ネットワーク構築にフル活用して、まさしく世界的な戦略思考に則って活動を行っていたわけです。
 そもそも、この時代に政治・経済に軍事に至る細やかなレポートを、印刷物として定期的に発行していたというだけでもびっくりな話なのですよ。それは勿論、ローマ法王庁に送られただけでなく、「印刷物」なのだから必要部数が刷られて、アジア各地の幹部クラスの間くらいは回覧されていたと考えるべきで、更に言えば極東からアジアに掛けてという当時の通信事情からすると太陽系の各惑星くらいに散らばっていた組織内で必要最小限の知識ベースの共有がなされていたという恐るべき話に繋がってくる。
 
 しかも更にこの話が皮肉を極めているのは、イエズス会が所属するカソリック(旧教)が不倶戴天の敵とするプロテスタント(新教)の誕生が、そもそもグーテンベルクの印刷機によって聖書が大量に印刷され、教会以外にも聖書(神様)を個人で所有可能となった状況をきっかけとしていること。テクノロジーとイデオロギーの悲喜劇的な関係性を内包している話ですな。
 まぁ、イスラム教原理主義がグローバリゼーションによるアメリカ文化への反発を思想の発起点としておきながら、資金調達やリクルート、情報収集、テロ計画の推進などにインターネットなどの最新テクノロジーをフル活用しているのと似ているっちゃ似ているかもしれず。
 
 その辺の話もさることながら、16世紀のイエズス会がアジア極東地域以外、とりわけ世界戦略として何を考え、どう行動していたかというのは、自分もこれまであまり勉強してこなかった領域なので、その意味では非常に興味深い一冊です。
 
 ……いや、だから読む暇をどうやって作るかって話でさ。