積読日記

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『キミキス pure rouge』

キミキス pure rouge 1 [DVD]

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キミキス pure rouge 2 [DVD]

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eb!コレ エビコレ+ キミキス

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青空loop

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願い星

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キミキス 1―various heroines (ジェッツコミックス)

キミキス 1―various heroines (ジェッツコミックス)

キミキス 2―various heroines (ジェッツコミックス)

キミキス 2―various heroines (ジェッツコミックス)

キミキス 3―various heroines (ジェッツコミックス)

キミキス 3―various heroines (ジェッツコミックス)

 元々は「キス」をテーマにしたPS2用のギャルゲーで、男主人公ひとりに複数のヒロインそれぞれのルートがあってという、この手のゲームとしてはひどくオーソドックスな物語構造の作品。
 自分自身はやったことないのだけど(つか、PS2持ってないし)、各方面からの話を聞く限り、男子中学生が憧れるような非常にスイートな恋愛シュミレーションと解釈して間違いはなさそう。
 基本的に純愛的なテイストを基調としていて、その意味で、東雲版コミックスの身悶えせんばかりの甘ったるい作風の方が原作に一番近いかと思われ、またファンの評価も高い。
 で、その東雲版コミックスでは、ひとり一人のヒロインのルートごとにストーリをリセットするやり方を取っているのだけど、OVAならともかく1クールのTVシリーズでそれは難しいよねってことで、このアニメ版ではちょっと別なやり方を取っていて、それが物議をかもしているわけなのです。
 
 今回のアニメ版では、ゲーム上ではプレイヤー視点の男主人公をまずふたりに分け、更にもうひとり完全にオリジナルの男キャラを立てて、この3人がヒロイン達絡んでゆくという構成にしているわけです。
 まずその時点で、原作ファンの男の子達にとって噴飯ものだったようなのだけど、更にオリジナルの新キャラがスかしたサックス男で、こいつにメインヒロインのひとりがあっさり惚れるという展開にしたものだから、ゲームからのファンが騒ぎ出した、と。
 まぁ、よくある話なのですが。
 
 今回のアニメ版の監督のカサヰケンイチとシリーズ構成の土屋理敬は、女児向けギャグアニメの『わがまま☆フェアリー ミルモでポン!』やNHKの野球アニメ『MAJOR』などを手がけたベテランで、特に監督は最近では『ハチミツとクローバー』『のだめカンタービレ』などのノイタミナ枠の恋愛コミック原作ものを手がけていずれも成功に導いた実績があります。
 それだけにプロの演出家の視点で「恋愛ドラマとしてアニメ版が自律して成立する」ための手段を考えたら、こうせざる得なかったというのもよく判るんですよね。
 いや、だって、「TVアニメ」という非常に情報量の多い映像空間で、そんな中学生男子の恋愛妄想だだ洩れな話を1クールなんて持たないって。原作ゲームならインタラクティブ性が高いから、妄想色の強い作品空間でも他者の視点をスポイルして、関係性の矛盾を隠蔽しやすいのだけど。
 東雲コミック版ではお話がちょっとでも進むとすぐに「二人だけの世界」に突入してしまうので、非常に酩酊感が高い。でも、それだけに拒絶反応を示す人もいるのではなかろうか。あれはもう、作者の東雲太郎と編集サイドのきわどいバランス感覚があって始めて成立している作品で、純粋にマンガ作品としてだけ見れば、青年誌に掲載するのはどうかと思われるほど主観的な快楽に即した作品となってしまっている。あれをそのままアニメ化して1クールも観せられたら、嵌りすぎて頭がおかしくなるわ。(好きだけど)
 それだけに男キャラを増やし、3組のカップルのそれぞれに異なる恋愛スタイルを提示することで、群像劇としてのバランスを取ろうとするのはとてもよく判るのですよ。
 原作ファンは納得いかないだろうけど、でも実際、すごく観やすくなってると思うけどなぁ。
 
 で、このアニメ版ではポイントとなっている点が大きく2つあって、ひとつはメインヒロインの内のひとりでお姉さんキャラの摩央姉(CV:池澤春菜)を物語の軸に置いたこと。コミュニケーション・スキルの高い彼女は幼馴染の弟分の恋を応援したり、他のヒロイン達の気持ちをほぐしたり、自身の恋に積極的に頑張ったりと八面六臂の大活躍で非常に好感が持てる女の子として描かれています。だいたい、最初のシーンからして、彼女が物語の舞台となる街に帰ってきたところから始まるしね。
 それともうひとつが、例のオリジナルキャラのサックス男で、このイケメンでいきなり校庭横の階段でサックスの練習しているような男と摩央姉が付き合う展開になるものだから、原作ファンの神経を逆撫でされたわけなのだけど(笑)。
 いやぁ、この男が見事に少女マンガに出てくるような「ちょい不良(ワル)」キャラなんですわ。ぶっきらぼうな態度でクラスで孤立しつつも、自分だけの趣味の世界持ってて、進学もせずアーティスト目指すとか夢みたいなこと吐かして、何のかんの言いつつ、ヒロインの自分だけにベタ惚れな男って。いや、それは裏返すと、自意識過剰でありながら、勉強やスポーツで周囲の環境になじむだけの適応能力もなく、コミュニケーション・スキル低くて、基本、女の子にもてないから近場で懐いてくれる目の前の女の子に執着しているだけなのだけど。こいつ本質的に『みなみけ』の保坂と同じだって(暴言)。
 で、こんなサックス男に、いきなり「素敵♪」とか言って摩央姉が惚れるわけだ。
 ……あー、そりゃ確かに中高校生くらいの女の子って、皆、この手の男に一度は嵌まるよね。何かもう、ハシカみたいなものというか。
 勿論、自分は、その手のサックス男に好きな娘を横から掻っ攫われたり、女の子の口からさんざんサックス男の話を聞かされたりする方の立場だったけどね!(怒)
 ただ、それだけに女性視聴者の感想ブログとか見てると、見事にみんなこいつに引っかかって面白い。ま、それは多分に、若い頃の自分の姿を振り返った自嘲気味のコメントだったりしますが。
 いずれにせよ、女性として充分に魅力的ではありながらいろいろ迂闊で脇の甘い摩央姉とこのサックス男の存在は、この作品の視聴者層を女性方向に大きく広げる効果があったのではないか。意外とこのアニメを観て、ゲームを買っちゃう女性もいるんじゃないかな。
 いやぁ、それが元々の原作ファンの男性陣を怒らせてまで取るべき、セールス的に正しい選択だったかどうかはよく判らんのだけれど。
 
 あ、ちなみに自分はアニメ版の迂闊な摩央姉のファンです。
 ……いや、基本、ダメ女好き属性なので(なんだよそれ)。