積読日記

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藤村幸義『老いはじめた中国 (アスキー新書 049)』

老いはじめた中国 (アスキー新書 049)

老いはじめた中国 (アスキー新書 049)

 オリンピック直前だというのに、主催国としては前代未聞の「内戦宣言」までやってしまうお隣の国なんですが。
■ロイター:再送:チベット暴動、中国はダライ・ラマ派との「人民戦争」を宣言
http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPJAPAN-30846720080317
 いや、まぁ、そりゃあ、ダライ・ラマ派じゃなくても、反体制派の活動家はチャンスと見ればなんだってやるだろうが、問題はそこではなく、そうした「不安定化工作(ディスタビライズ・オペレーション)」ごときであっさり火がつく住民感情を放置してきたことにある。不燃性の土壌にいくら燃料を撒いても火はつかないが、からからに乾いた草原ならマッチ一本で火の海と化す。
 今回の件で言えば、仮にこれが誰かの仕掛けだったとしても、ここまでの状況は想定外であったろう。少なくとも、この期に及んで抗議声明にわざわざ北京オリンピックを支持する文言を織り込んだダライ・ラマ本人の意思は明白であろうと思われる。
YOMIURI ONLINEダライ・ラマ14世が会見、チベット暴動で国際調査を
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20080316-OYT1T00418.htm
 しかしながら、それに気づいてか否か、強硬に「内戦宣言」まで突っ走った北京の意思──いや、恐怖の源泉は何なのか?
 それは自分たちの統治(ガバナンス)への、およそ大国として信じがたいまでの自信のなさ、だ。
 
 本書はおよそ数世紀ぶりにアジアの覇権国家の座に返り咲こうとしている大国・中国が、その足元で急速に崩壊しつつある点を指摘する。
一人っ子政策」の当然の帰結として、日本以上の急角度で少子高齢化社会に雪崩込みつつある社会。急速に広がる貧富の格差。環境破壊。資源不足。産業の発展、経済規模の発展に比して、依然として脆弱な工業基盤。法的環境整備の遅れ。サブプライム問題など消し飛びかねない膨大な不良債権の可能性。……。
 そして何より、多発する様々な諸問題に対して、現在の共産主義体制が適切な統治(ガバナンス)を維持できていないのではないかという抜きがたい疑惑を、自分などは持っている。
 たとえばこのところ毎年のように米国防総省(ペンタゴン)は中国の軍事費の不透明さを指摘しているが、あれなぞ北京自身も自国の正確な軍事費を把握できていないのではないか?
 そういった意味で、今回の中国のチベット動乱に対する迅速かつ苛烈な対応は、まかり間違えば国家全体がばらばらに崩壊しかねないという恐怖感に依拠するものだとすれば腑に落ちやすい。
 
 しかしまぁ、昨年NHK特集でやっていたチベットのルポなぞ観ていると、こんなこといつ起こってもおかしくなかったのだと素人にも判るのに。異民族が土足で乗り込んで、冊束で頬をはたくように二足三文で郷土の聖遺物を買い漁り、「美術品」と称して観光客に高値で売って大儲けしたり、チベット人の従業員をいかに安く使うかしか頭になかったり、漢人の横暴さと無神経さは戦前の大陸浪人より酷かったもの。典型的な初期資本主義の収奪社会っつーか、まんま船戸の兄ぃ小説っつーか。あれ観てチベット旅行なんか考える奴の気が知れませんわ。
 
 で、日本人として、どうすりゃいいのって話なんですが……。
 う〜ん、どう考えてもソフトランディングの線がイメージできん(爆)。
 当座の話として、チベットで何十万人と殺されようが、ほとんどの国はボイコットせずオリンピックは開催されるでしょう。米国経済がひとりで撃沈する中、中国市場は無視できないから。日本だって、中国とインドの経済が堅調だからこの程度の景気後退で済んでるわけだし。
 ただ、オリンピック後の景気調整局面をうまく乗り切れるかどうか、正直危なっかしいことこの上ない。今後30年のスパンで見れば、下手を打つと春秋戦国時代に逆戻りという自体もあり得ると思う。
 それを日本は「ざまぁ見ろ」と眺めていられるか、というとそうもいかない。
 世界を席巻する中国からの輸出産品の部品や加工治具の多くが日本製であることが示すように、日本の製造業は少なからぬ割合を中韓を介した間接輸出構造に依拠しているし、消費市場としても無視できないほど巨大になりつつあるので、いまや中国なしで日本経済は立ち行かなくなってきている。
 まぁ、例の毒餃子の件もあるし、今からなるべく距離を取るようにした方がいいとは思うが──難しいよなぁ。
 肚を括って一蓮托生でハードランディングに付き合うってのも、ひとつの見識ではあるけれどもね。