積読日記

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太田垣康男『MOONLIGHT MILE 16 (ビッグコミックス)』

MOONLIGHT MILE 16 (ビッグコミックス)

MOONLIGHT MILE 16 (ビッグコミックス)

 この作品は厳密には「戦争」をテーマとした作品ではないのだが、この巻の後半は現在も連載が続く「宇宙テロ編」の序盤編なので、今日はその辺を含めて。
 
 さて、現代から地続きで近未来の宇宙開発を語ってゆくこの物語も、ロストマン暗殺という衝撃のクライマックスで第1部が終了。
 いきなり10年後に飛んで、この時代まで続く印パ紛争を背景とした宇宙テロで第2部が幕を開ける。
 いやぁ、2大主人公の片方をここで殺すとは。
 悟郎とロストマンに象徴される、宇宙を目指す「平和」と「軍事」のふたつの哲学の相克というテーマはまだまだ語りつくせてはいなかったと思うのだけど、あえてそれを崩してまで次の世代のステージに話を持っていったのは何故だろう。
 まぁ、米中の対立という新しい冷戦構造の提示はできたし、ロストマンも大統領補佐官まで出世しちゃったので使いづらくなってきたってことなのだろうけど。
 
 宇宙開発というのは、本気でやろうとすると米国でさえ一国では支えきれないほどの巨大な資本が必要で、そのために既存国家の合従連衡が発生するだろうという想定は自分もしていたのだけど、米国の衰退がここにきてちょっと予想より急に進んできているのと、中国がまだまだ大国としては足場がふらついているので、米中で「新冷戦」という構図にリアリティが薄くなってしまっていた。
 その意味で、印パの地域紛争にフォーカスを当てて仕切りなおしというのは、いい着眼点だと思う。
 いや、ま、この辺も最近のパキスタン情勢見てると、2030年なんて先まで持つのか怪しかったりするのだが……(う〜む)。
 
「テロ」という行為は勿論、倫理的には「いけないこと」なわけなのだけど、そういった一切を棚に上げて「情報の流れ」としてだけに突き放して眺めると、世界の構造的な辺境地帯で発生した状況を中枢地帯(ハートランド)に届けるという機能を持っている。
 実も蓋もない話だが、西側先進国で暮らす都市生活者が、その身にテロでも降りかかってこない限り、中央アジアだのアフリカだので発生している構造暴力に目を向けるはずがない。我々は我々なりに、日々の暮らしで精一杯なのだ。
 だが、グローバリズムの深化のおかげで、中枢地帯(ハートランド)での企業や市民の配慮の不足が、辺境地帯で甚大な被害をもたらすこととなった──いや、その構造が誰の目にも見えるようになってきた、と言うべきか。初期のグローバリズムは黒船来航の頃には、既に始まっていたと見ることもできる。
 とは言え、先進国の住民すべてが大統領執務室(オーバルオフィス)にいるわけでもなし、そこまでの目配せを求められても無理がある。
 そんなギャップを埋めるひとつの手段が、こうした「物語」の役目なのだろう。
 それだけで、辺境世界に生きる人々の憤怒と絶望をすべて救えるわけでもないのだが、この物語を読んだ読者がせめてほんの少しでもそれぞれの問題を意識するだけで何かが変わるかも知れない。
 たわいのない淡やかな夢かもしれないが、語り部の希望とは、いつだってそこにあるのだ。