積読日記

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原作:太田垣康男/作画:C.H.LINE『FRONT MISSION DOG LIFE & DOG STYLE 2 (ヤングガンガンコミックス)』

FRONT MISSION DOG LIFE & DOG STYLE 2 (ヤングガンガンコミックス)

FRONT MISSION DOG LIFE & DOG STYLE 2 (ヤングガンガンコミックス)

 例によってかなり遠い所から始めてしまうが、『ガンダム00』の失敗の一因として、現代における戦争の主役がもはや機動兵器ではなくRPGやATM、携行型SAMなどの携行ミサイル火器で重武装化した軽歩兵に取って代わられつつあることが挙げられるように思う。
 航空機や戦車などの機動兵器同士の戦闘が発生するには、一般に国力の拮抗した国家同士の戦争である「対称型」戦争である必要がある。しかし、WWII以降の国際社会では、国連やその他の国際機関により、同レベルの国家間であれば戦争回避のメカニズムが機能するので、対称戦は発生しづらくなってきている。*1
 加えて、システムの複雑化に伴い、機動兵器の開発・調達・運用のコストはうなぎ上りに上昇しているので、一定の国力を持った国でしか維持・運用できず、その「一定の国力を持った国」の資格がある国であれば大概国際社会に参画しているので、上記の戦争回避のメカニズムが機能して「対称戦型」戦争は回避される。
 一方、国力が極端に開いている場合、もしくは片方が国家ですらない場合などではこうした既存の戦争回避のメカニズムが発生しづらく、そのまま戦争に突入してしまうケースが少なくない。いわゆる「非対称型」戦争だが、この場合、戦争の一方の勢力は機動兵器を装備できる体力がそもそもなかったり、あっても脆弱なものである場合がほとんどなので、初期の戦闘であらかたの装備が一掃され、結果、双方同水準の機動兵器で対等に戦うといった機動兵器戦は非常に成立しづらくなってしまう。
 そこに加え、上述の歩兵ユニットの重火器化によって、高価な機動兵器も地形や状況によってあっさり喰われることが珍しくなくなった。カイバル峠で聖戦士(ムジャヒディーン)が回避不能の至近距離から雨あられと放つ中国製RPGに晒されたソ連軍機械化狙撃兵師団の隊列の故事を引くまでもなく、昨年、高度に機動化されたイスラエル陸軍が、ハマスとの戦闘で多数の戦車(メルカバ)を喪って苦戦したことも記憶に新しい。
 結局、二次元に、あるいは高層化された市街地に至っては三次元に、自在に浸透・展開し、凶暴で精確な携行ミサイル火器を放つ歩兵こそが王者として君臨するのが、21世紀の戦場なのだ。
 
 だが、それは彼らが決して傷つかない存在であることを意味しない。
 機動兵器に対する勝利は、歩兵たちのおびただしい犠牲の上にようやく掴みうるものだ。
 たとえば、一般に有効な対戦車火器を有しない歩兵が1輌の戦車を屠るのに1箇中隊300人の犠牲を必要とするとされる。理論値ではない。フィリピンの山中で、我らが父祖の軍隊が実際に戦場で叩きだした実測値である。M4シャーマン中戦車の殺戮機械としての性能に戦慄すべきなのか、そこまでされてなお戦闘を継続する旧日本兵の敢闘精神に恐怖すべきなのか、平和な時代に生きる我々には何とも言いがたい。
 携行ミサイル火器の普及で、歩兵はただ狩られるだけの存在ではなくなったが、かといって彼等の肉体が重機関銃の12.7ミリ弾やナパームの業火に耐えられるようになったわけではない。
 1機のハインドを墜とすために何人の聖戦士(ムジャヒディーン)が、1輌のメルカバを潰すために何人のハマス兵士達が犠牲となったのか、もって瞑すべし、である。
 
 そこで本作について。
 本作はエニックスの人気ゲーム『FRONT MISSION』の世界観で描かれるさまざまな戦場の状景を描く作品だが、ゲームをやらない自分には『エース・コンバット』の世界観とあまり区別がつかなかったりする。が、まぁ、とりあえず巨大な陸戦ロボット兵器ヴァンツァーが戦場を跋扈する近未来の戦争アクション物と捉えておけば間違いない。
 この巻では、首都から撤退する味方部隊の隊列を殿(しんがり)として護ることとなったO.C.U.軍第929歩兵分隊が1機のヴァンツァーと刺し違えて全滅するまでの「猟犬の群れ」編と、戦場に取り残された老ヴァンツァー兵が逃げ遅れた少女とともに脱出を図る「楽園の果実」編を収録。
 前の巻が出てからだいぶ経つので、前回の日本人ジャーナリスト達の話ってどうなったんだったかよく思い出せないんだけど、まぁ、それはいいか。
MOONLIGHT MILE』の太田垣一門の精緻なタッチもあって、戦闘シーンは迫真に迫る勢いがある。
 特に勇敢にして有能な指揮官。鍛えられ自己犠牲を惜しまぬ兵士達──いずれどこへ出しても恥じることなき若者達が、無造作に肉塊へとすり潰されてたった1機の機動兵器(ヴァンツァー)と刺し違えただけという「猟犬の群れ」編は、実際の戦場での対戦車戦闘の凄惨さを多少なりと学ぶとただのフィクションとして眺めるには辛いエピソードだ。
 しかし、機動兵器のコックピットから、パイロットがモニター越しに手前勝手な理屈をぶつけ合うのを「戦争」だと言い張るアニメより、遥かに戦場の真実に近い作品であろう。
 無論、この作品とてフィクションであることを承知で、良質の戦場コミックとして本作を推そう。

*1:まったくなくなったわけではない。