積読日記

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李 闘士男『デトロイト・メタル・シティ』


デトロイト・メタル・シティ(プレビュー)
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デトロイト・メタル・シティ スタンダード・エディション [DVD]

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デトロイト・メタル・シティvsシブヤ・シティ?渋谷系コンピレーション

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アニメ デトロイト・メタル・シティ DVD-BOX(4枚組)

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 例によって公開から1ヶ月も経っての休日の夕方の回。近所のシネコンでも小さめのスクリーンに、それでも入りは半分強くらい。心なし女性客の方が多かったかな。ちなみにお隣の席は、お孫さん連れのお婆ちゃんでした。
 原作はちょうど映画で描かれている3巻くらいまで読んで、それから何となく買わなくなっちゃってるな。
 
 先に結論を言ってしまえば、「プログラム・ピクチャーとして、非常に良くできたコメディ・ヒーローもの」。
 まず構造の話をすれば、『スパイダーマンTM [DVD]』なんだよね。
 例えば、クラウザーII世の格好をした主人公が、大好きな女の子から罵倒されながら(わざとらしく(笑))倒れてくるヒーロー像から彼女を守って、でも正体は明かせずに雨の中を落ち込みながらとぼとぼと歩いてゆくとか、もろに『スパイダーマンTM [DVD]』になかったっけそんなシーン(笑)。
 非常に古典的なヒーロー像で、そりゃあ、アメリカ人にも大受けするはずだよなぁ。
 同時にこの映画が若者だけでなく、お孫さん連れのお爺ちゃん、お婆ちゃんでも安心して(?)観にこれるのは、作品の根幹となる部分を宮崎美子演じる主人公の田舎のオカンがどっしりと支える「ファミリー万歳」的な思想で貫かれているため。
 いや、だって、次男がデスメタルにかぶれて登校拒否したり、長男がクラウザーII世となって朝食の団欒を囲っていたりしても、普段どおりにあっさり笑顔で受け入れるんだぜ、美子ママは。……日本の母は強い。
 おかげでこんなに主人公が「SATUGAIせよ!」「FUCK!」「レイプ」と反社会的な叫びを繰り返しているのに、「良くできたファミリー映画」としての印象しか残らない(爆)。
 後はもう、この10年ほどで急速に洗練されてきた日本映画界のマンガ原作の映像化力の粋を極めたような、レイアウトとカット割り、それにタイミング良く詰め込まれる小ネタ小ネタの連続で、力づくでプログラム・ピクチャーにまとめられた感じ。
 原作を知らないか、浅いファン層なら文句の付けようのない、笑って笑って、ちょっとだけ感動して、最後は大笑いで締められる良い映画になっている。
 
 ……なのだけど、逆に言えば、原作のギャグマンガとしての破壊力や、あるいは音楽ジャンルとしての「デスメタル」の持つ反社会性、アナーキズムといった思想性が、きれいに「ファミリー映画」としての枠の中に丸め込まれているわけで、往年のKISSを知る古い音楽ファンなら、ノリノリで演じるジーン・シモンズの姿に複雑な思いを抱かずにはいられないだろう。
 ネットの界隈を見る限り、特に原作ファンやKISSファンが怒っている様子もないので杞憂でしかないのかもしれないけど、この映画がやってのけているさまざまな文脈(コンテキスト)の読み替えは、本来、相当に力づくで強引なものだ。
 それは、あらゆる思想性を取り込んで無害な「ファミリー映画」にしてしまうほど、日本映画の表現力は強度をつけてきた証と言えなくもないけど、往年のハリウッド映画のようにやがて毒にも薬にもならない映画しか作れなくなってしまうのではないかという懸念もなくはない。
 まぁ、「SATUGAIせよ!」と歌う主人公の姿を、お孫さん連れのお婆ちゃんがお腹を抱えて大笑いしているのを、「良い時代だ」と取るかどうか、でもあるのだけどもね。
 
 何にせよ、観に来た観客の皆が愉快に笑って、ニコニコしながら映画館を後にできるという点で、素敵なコメディ映画ですよ。
 後くされなく楽しみたいという方には、是非。
神様はバリにいる

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