積読日記

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菅原出 著『民間軍事会社の内幕』

民間軍事会社の内幕 (ちくま文庫 す 19-1)

民間軍事会社の内幕 (ちくま文庫 す 19-1)

 昨今のイラクアフガニスタン戦争の裏側で、急速に進行する民間軍事会社(PMC)の世界を描いたノンフィクション。
 概ね他の資料からも確認できているので、事実その通りではあるのだろうが、現代の「戦争」は既に行き着くところまでいってしまっている感があり、開いた口が塞がらないというか、率直に気持ち悪い。
 何でもかんでもPMCと無人偵察機(UAV)に置き換えてしまったこの戦場で、本当に戦っている主体はなんだ? 国家という主体が、「戦場」というこれ以上ない政治的現実を直視すること忌避し、コストの抑制を望ながら、「暴力」というサービスは手放したくという醜悪なわがままさに、吐き気すら覚えてしまう。
 
 米国はこのままぐずぐずになっていくのだろうな、と思うのだが、翻って日本だけそこから背を向けていられるとも思わない。
「行政サービスのアウトソーシングの話」と捉えれば、どの先進国にでも避けようのない現実の話となって目の前に突きつけられる。膨れ上がる社会保障費の圧力の前に、公務員歳費の圧縮とサービスの維持を求められれば、行政のアウトソーシング化とIT化をよりいっそう推し進める以外に道はない。その結果、首を切られた公務員が民間労働市場に雪崩込むのだろうが、そこに彼らの職はない。
 なぜなら、国家・自治体業務の効率化に先立ち、あるいはその成果を活用して民間市場も効率化しているのだから。公的セクターで生産性が低いと見做された人材に仕事なんてあるわけがない。同時に民間市場でも、同様の理由で市場から排除された労働者が労働市場に滞留する。
 一方、不採算資源として生産性の低い労働者を切り離し、マッシブな高生産性組織体と化した企業は高い利益率を叩き出す。しかしそれは、労働分配率を低く抑えられたればこそでもある。先進国を襲う「雇用なき回復(ジョブレス・リカバリー)」とはこういうことだ。
 
 そんな社会では、高度な技能や人脈を有して自由に企業間を転職してゆくことが可能な高度技能労働者と、誰にでもできる仕事で他者との取替可能性が高く、低賃金で不安定な労働者に二分されてゆく。
 本書でも、軍からの天下りで高給を取って業界を渡り歩く高級軍人や特殊部隊出身者と、実際に最前線で銃を取って身を危険に晒しながら、もっと安い給料ですむ発展途上国の軍人出身者と置き換えられてゆく武装警備員達に二分されてゆく状景が描かれる。
 それと同じ状景は、この国でも普通に見られるようになるだろう。
 そうした状況が進んだとき、「戦争」は誰の何のために行われるのだろう?
「国家」とは、誰の何のためのものになるのだろう?
 
 否応なく進む世界の変容を前に、私達はまだそれを受け留めるだけの思想や哲学を手にできているとは言えない。
 そんなことを読みながら考えた一冊でした。