積読日記

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制作/監督/脚本:アンドリュー・ニコル『ロード・オブ・ウォー』


ロード・オブ・ウォー
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ロード・オブ・ウォー Blu-ray

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ロード・オブ・ウォー―史上最強の武器商人と呼ばれた男 (竹書房文庫)

ロード・オブ・ウォー―史上最強の武器商人と呼ばれた男 (竹書房文庫)

 上でも書きましたが、よりにもよって寒空のクリスマス・イブの夜に出張って観る話かとは思ったものの、諸々スケジュール的にこのタイミングぐらいしかなかったため自宅最寄でやってる立川まで出撃。シネコンでも小さなスクリーンで、しかも遅い時間ということもあって客は自分を入れて20人ほど。内、カップルは3組ほどでした。彼女連れでクリスマスに観に来る映画じゃねぇだろと思いはしたものの、まぁ、そりゃあ、こっちも似たようなものか。
 で、内容はといえば、冷戦末期から現代に掛けての現代史を背景に、NYの下町から世界有数の武器商人に成り上がった男の一代記。どんな凄惨な戦場にもスーツにネクタイというスタイルを崩さず、片手にドルの詰まったアタッシュケース、もう片方の手には携帯電話(セルラーフォン)を持ち、口八丁手八丁で紛争地帯を渡り歩くニコラス・ケイジを小気味良いテンポとユーモアたっぷりに描くものだから、ついつい良く出来たビジネス出世物語のように感じてしまうけど、この男やってることは武器を世界中にばら撒くことなんだよね。目の前でおきる虐殺にも、「自分には関係ない」と切り捨てて。
 そうは言っても、あまりに簡単にばたばたと人が死んでゆく現代アフリカの無秩序な混沌の前に、さすがに葛藤せざる得なくなってゆくのが、中盤以降の展開の主軸となってくるわけだけど。
 そして、普通のハリウッド映画であれば、むしろ主役はニコラス・ケイジを執拗に追い詰めるインターポールの捜査官であるイーサン・ホークの方で、ラストは銃撃戦と大爆発とともに悪玉武器商人が滅んでめでたしめでたし――なのだが、この映画ではその逆の構造で物語が描かれているので、錯綜と倒錯を重ねる国際政治の前には凄腕の捜査官といえどただの道化でしかなかったことが暴露されて物語はエンディングを迎える。
 ……何が頭痛いって、これ現実そのままなんだもんなぁ。
 
 この映画のもうひとつのテーマは、「才能と倫理」。統一された世界政府の統制もなしに、市場の流動性だけが突出して連結することで形成される現在の「グローバル化」は、才能のある者のパワーを無限に増幅する。「市場がその才能を求めている」――その一言を錦の御旗にして。しかし、個人としての「人間」はどこまでそれについてゆくべきなのか、ついていかざるえないのか。
 物語のラストで、主人公は彼が「人間」で在り続けるために必要なすべてを喪いながら、「国際武器売買」という市場が彼の「才能」を求めているという理由で破滅を回避する――いや、「破滅することすら許されなかった」のだ。その意味で、イーサン・ホークだけでなく、主人公を含むすべての登場人物、すべての人々はグローバル市場経済の前には等しく道化と化さざる得ないのだと言わんばかりに。
 ただしこの映画の非常に興味深い点は、そうは言いつつも、この映画自体、ハリウッド資本ではなく国際的な映画資金調達によって製作されている点でもあるんだよね。合衆国政府の場当たり的な武器輸出政策への痛烈な批判を含む本作は見事にハリウッド資本からそっぽを向かれてしまい、グローバルな映画資金ファンドの市場がなければ成立しなかった。この映画の製作のために実際の武器商人から兵器を借りるといった協力を得ていることも含めて、眩暈がするほど重層的な皮肉で構築されていて、製作者自身、この皮肉を愉しんでいる風情さえある。
 結局のところ、何でも出来て、何でも出来てしまうこの世界で、「人間」である自分を見失わずに人は何をすべきか、どう生きるべきかということをこの映画は問うているのかもしれないなぁ。
 などと考えながら家路についたクリスマス・イブでした。
TIME/タイム (吹替版)

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TIME/タイム (字幕版)

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シモーヌ(字幕版)

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