監督/脚本:スティーブ・ギャガン『シリアナ』
Syriana - Original Theatrical Trailer
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ワーナー・ブラザース映画「シリアナ」オリジナル・サウンドトラック
- アーティスト: サントラ,アレクサンドル・デプラ
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- 作者: ロバートベア,Robert Baer,佐々田雅子
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公開初日の夜21時前からの回で、200席のスクリーンが3割強ほどの入り。
この映画の題名の「シリアナ」というのは、米英の中東問題の専門家が使う業界用語でシリア・イラク・イランを中心とする中東諸国が民主化(つーか、親米化)され、統合された仮想国家のこと。勿論、そこに住む人々の日々の生活や幸福に根ざしての話ではなく、米英のエネルギー安定供給のためにそうした国家が必要という身勝手極まりない理由からくる概念でもある。困ったことに、大真面目にこれの実現を目指してあれこれ画策する連中が米英の政財界のパワーエリート層に実在し、それはこの映画でも「イラン解放委員会(CLI)」*1なる組織が登場する。
ただ、こうした動きが露骨になってきたのは、作中でも端々で触れられているように、なりふり構わない中国のエネルギー獲得戦略が背景にあるため。工業化が進み、10億の国民になお一層の経済成長を約束するために中国政府とエネルギー業界は必死だ。拡大する貧富の差への不満は、かろうじて「今は苦しくとも、明日には豊かになれる」という希望で抑え込んでいるに過ぎない。それが約束できなければ、真剣に国家崩壊の危機すら招きかねない。
一方で、米国もまた湯水のごとく石油を消費する今のライフスタイルが捨てられない。そのためであれば、下手な言いがかりで国ひとつ滅ぼしてしまうほどに。
その両者による「冷戦」*2がもたらすさまざまな事象を、同時並行で進む5つの物語に託して語られる。
その意味で、この映画は社会学で言うところの「構造暴力」をもたらす「構造」を描き出すことをテーマとした作品である。
この「構造暴力」とは、「暴力」や「貧困」とは、誰か特定の悪者がいて発生するのではなく、社会の「構造」そのものに起因するという考えに立つ言葉だ。では、その「構造」を壊せばいいのか、と言えば、必ずしもそれほど単純な話ではない。その「構造」を享受し、その「構造」によってはじめて救われている人々もいる。端的に言えば、石油を巡る国際政治の暗部がどれほど薄汚く、そこに人生を踏みにじられる人々がどれほどいようとも、石油を大量に消費することで成り立っている私たちの日々の暮らしをそうおいそれとは捨てられないという話でもある。
作中で語られる、息子を事故で失った喪失感を石油国の改革派の王子の下で社会改革のために働くことで埋め合わせようとする若き石油アナリストの物語も、その改革派の王子が中国に接近しようとしていることを考えると、米国や日本の観客としては微妙な思いにならざる得ない。更に言えば、この王子とアナリストの物語の結末をもたらした「意志」を、米国の傘下で媚びへつらいながら生きることを選択している日本人*3に否定するのは難しい。
だから、そこでエンターテイメントとしての爽快感や、何かをどうしよう、こうしようというメッセージ性をこの映画は訴えているわけではない。
ただ石油を巡って生じる人々の生と死の情景を、淡々とスケッチしているに過ぎない。それも、取り立てて新しい事実を暴露しているわけでもなく、公開された資料や書籍も入手可能な、その筋のジャーナリストの間では常識扱いされているような話を物語仕立てにしたに過ぎない。
それが観る者の胸を打つのは、勿論、こちらの罪悪感ゆえだろう。
その罪悪感はすぐに解決するものではないし、解決する方法もないが、日々の暮らしの中でどこか頭の片隅にでも置いておくくらいのことをしてもバチはあたるまい。せめてそれくらいのことはしてやるのが、高度消費社会の一員として生きる我々の義務ではないかと思うのだ。
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