『内閣権力犯罪強制取締官 財前丈太郎』第10話「対決者…デュエラー」

内閣権力犯罪強制取締官財前丈太郎 01 (BUNCH COMICS)
- 作者: 渡辺保裕,北芝健
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2004/02/09
- メディア: コミック
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場末の飯場で読み継がれてぼろぼろになった大藪春彦の文庫本をして、「俺もあんな風に扱われる本が書きたい」と言い放ったのが若き日の馳星周で、その意図するところはお高くとまっている文学には価値はなく、底辺で暮らす人々の日々の糧としてかくも徹底的に消費しつくされる作品こそ価値があるのだ、という辺りにある。と、思う。
で、その意味で言うと、この作品は、萌えオタだのサブカル・オタクだのの視聴者層をはじめから視野に入れず、週末のTUTAYAでワーキングプアな視聴者層にVシネと一緒に籠に放り込んで憂さを晴らしてもらう「大人のファンタジー」なのだ。
だからして、まぁ、全編通して非常に頭の悪そうな基本設定も、キャラ造形も、ストーリー展開も、いちいち突っ込み入れてもしょうがないのだけれど、ただ今更、敵がゼネコンと土木族の政治家ってのはないだろう、と。
おまけに筋肉裸族の「政界の黒幕」ときたよ。10年前で頭の中身が止まってる。どいつもこいつも、小泉政権のこの5年間できれいさっぱり叩き潰された連中じゃねぇか。
ついで言うと、その原因となった公共事業の引き締めで地方への所得の再配分機能が機能不全に陥り、軒並み地方財政が破綻しつつあるわけなのだが、当然、この作品ではそんなことは気にしない。*1
「権力が腐敗するのではない。腐敗こそが権力なのだ」と喝破したのは、ジェイムズ・エルロイだけれど、小泉政権がこの連中を叩き潰したのは都市型のIT系や金融系の財界に立脚した権力構造への移行に邪魔だったからで、別に善意や正義感からではない。シビアなパワーゲームの結果でしかなく、そのIT系や金融系の企業家達にしても、次期安部政権への禅譲に邪魔になりそうだという理由で出過ぎた杭は即座に叩かれた。またそうした権力構造の流動化自体が、この国の経済や社会の柔軟な適応能力を維持している面もあるので、一概に小泉政権の身勝手な非情さが悪いとばかりも言えないのが政治の世界だ。
どうなんだろうね。
これでゼネコンや土木族の権力犯罪を主人公が殲滅した後、その結果に地ならしされて、IT系や金融系、派遣労働者を喰い物にする大手メーカーとかが台頭してくる状況まで言及してくれたら、この作品を諸手を挙げて喝采するのだけど。