Cuvie『ドロテア?魔女の鉄鎚 5 (角川コミックス ドラゴンJr. 93-5)』
ドロテア~魔女の鉄鎚~ (1) (カドカワコミックスドラゴンJr)
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ドロテア?魔女の鉄鎚?(2) (カドカワコミックスドラゴンJr)
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ドロテア?魔女の鉄鎚 3 (角川コミックス ドラゴンJr.)
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ドロテア?魔女の鉄鎚 4 (角川コミックス ドラゴンJr. 93-4)
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ドロテア?魔女の鉄鎚 5 (角川コミックス ドラゴンJr. 93-5)
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白い肌と髪、赤い瞳のその姿に、魔女として弾劾されかねない危険を冒しながら、そして略奪と非道のまかり通る中世社会の傭兵(ランツクネヒト)達の只中にあって、「雷槌の魔女」──ドロテアは故郷を救うために剣を奮い、乱世のドイツを駆け抜けてゆく。
前々から書店で単行本の表紙を見かけるたびに気になっていたのだけど、たまたま手に取った1巻が面白かったので5巻まで一気買い。
いや、面白い。うむ。
最近、徐々に国内でも紹介されるようになってきた中世ドイツの傭兵(ランツクネヒト)達の非情な実態を奇麗事抜きでしっかりと描きながら、しかし女性であり被差別者のアルビノでもあるドロテアの目線を通すことによって、現代の読者にも受容できるような視点を獲得している。
読者である我々は勿論、現代人の感性しか持っていないのだがら、兵士達が罪なき村人へ略奪やレイプなどを行う姿を目にすれば、作中の登場人物に怒りや悲しみの感情を表現して欲しいと感じるし、そうしたガス抜きがないと読み続けるのが苦痛になる。
その意味で、テーマの重さに比してやや軽い感のある絵柄も、無理なく読み進める原動力となっていると言えなくもない。
欲を言えば、もうちょっとレイアウトやネームの切り方が洗練してくれないかなという点はある。特に史実に基づいた複雑な政治的駆け引きや兵力展開など、ネームだけに頼らず、もっと図版を多用して判りやすく示して欲しい。
しかし、重厚な世界観を背景としつつ、戦場を駆ける少女剣士の恋と冒険という力強い王道の物語創りは、一般商業誌デビュー作にしては充分すぎるほど魅力的だ。
さて、最新刊の5巻では、ドロテア達の働きによってナウダースを脅かすエムスへ大国ザクセンの侵攻が開始され、一方、愚昧な領主の下で内部分裂の危機に立つナウダースという大状況の動き。そして、ドロテアと同じアルビノの囚われの姫エルザが、遂にその秘めた想いの丈をギュルクにぶつけ、またドロテアの身にも異端審問官の魔女狩りの手が迫るという、実にドラマチックな一幕。
いやいや、これぞ王道ロマンスの醍醐味。素晴らしい。
911の直前、国際政治学の最前線では、冷戦崩壊後、文明社会の後背に忍び寄る中世的暗黒が密かなテーマとして語られていた。それは「文明圏」と思われていたバルカン諸国があっさりと国家分裂と民族抗争の只中に転がり落ち、民族浄化(エスニック・クレンジング)の横行する中世的暗黒に呑み込まれる現実に、特に欧米の研究者は戦慄していたからだ。
昨日までにこやかに挨拶を交わしていた隣人の家へ、壁面を穴だらけにしてなお気がすまないほどの銃弾を撃ち込む──そんな現実を目の当たりにした彼らは、文明社会とはかくも脆く、儚いものだったと気付かざる得なかったのだ。
イスラム原理主義者による911テロの実行とその後の文明間抗争も、国際政治学の世界ではその文脈の延長線上に位置する出来事であり、ある意味、起き得るべくして起こった出来事だったのだ。
そうした意味で、現代という時代にあえて「中世の闇」とそこに生きた人々の物語に接するのは大きな意義を持つ。
勿論、そんな小難しい理屈を気にせずとも充分に楽しむことのできる作品だが、そうした歴史的視座(パースペクティブ)を意識することで、作品の奥行きはぐっと増してくる。
王道ロマンスとして楽しむも良し。
中世という時代を通すことで見えてくる史観に唸るも良し。
実に味わい深い佳作である。
いずれ巷間の評価はおのずと高まろうが、良作の先物買いを任ずる人ならば、是非にも手に取られたし。