積読日記

新旧東西マイナー/メジャーの区別のない映画レビューと同人小説のブログ

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本田 透『なぜケータイ小説は売れるのか (ソフトバンク新書)』

電波男』で一躍名を揚げ、最近はライトノベルばかりを出している印象のある著者による、「ケータイ小説」の解説本。
 ほとんど門外漢であろう一般社会人に「ケータイ小説」という現象を解き明かした本と言うべきか。
 これ一冊読めば、「ケータイ小説」の今が一発で判る──つか、それで判る程度の話しか書いていないというか。
 
 ただ、これは別に著者の力量がないわけでも、所詮は新書だから、というわけでもない。
 著者もまた「ケータイ小説」の本来の読者ではないのだ。
 本書では「七つの大罪」として「ケータイ小説」の類型的な構成要素を例示しているが、このように作品に対して冷静に接して分析できる著者が、極めてエモーショナルな要素の強い「ケータイ小説」の正しい読者であるとは思えない。
 この類型的な──と言って悪ければ、原初的(プリミティブ)過ぎる物語の「ケータイ小説」に接して、目を涙で泣き腫らしながら読み進む地方の女子中高生達の心の中で駆動する感動のエンジンの構造を解き明かすのは、その当事者以外にはありえない。
 しかし、彼女達はいまだ自分達の心の裡を普遍的に通用する言説で解き明かす言葉を持っておらず、今はまだ我々は著者のような「外部からの視点」でこの現象を観測するしかないのだ。
 隆盛を誇るBLでさえ、まっとうな学術的な論説を獲得してきたのはようやく最近の話なのだから、我々がこの「ケータイ小説」なる現象をある程度の精度で把握できるようになるのは、まだまだ先のことなのだろうな。
 
 ま、それはそれとして。
ケータイ小説」利権を巡って、早くも見苦しい攻防戦を始める出版界とか、『恋空』のような素人作家によるパッションに任せて語られる「実話テイスト」の作品群主体の時代から、それなりに小説技法を身に着けた作家志望の作家達による投稿が増えてきている「ケータイ小説」の現状など、非常に面白いエピソードが紹介されている。
ケータイ小説」のあの文体にはさすがについてゆけないと逃げ腰のオジサンにも、この「ケータイ小説」という現象はちょっと面白そうですよ。