積読日記

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清水美和『「中国問題」の内幕 (ちくま新書)』

「中国問題」の内幕 (ちくま新書)

「中国問題」の内幕 (ちくま新書)

 まだ半分くらいまでしか読み終えてないので、正式なレビューには早いのだが、ここまで読んで見えてきたのは「中国の外交問題は徹頭徹尾、内政問題の延長でしかない」ということだ。
 現主席・胡錦濤率いる共産党青年団と、主席の座を退いた江沢民率いる革命第一世代幹部等の子弟で構成される太子党・上海グループの権力闘争のエネルギーがあまりに強大であるが故に、外交や中国の国際社会での振る舞いはその投影としてしか機能しなくなってしまっているのだ。
 例えば、今現在、中国が直面する内政・外交の最大イシューは言うまでもなくチベット暴動の問題なのだが、ここに現主席である胡錦濤の立身出世がチベット統治の成功の実績を基盤としており、また事がよりにもよって全人代の開催期間中に発生したというあまりのタイムリーさを視点として組み入れると、ちょっと話が違ってくる。つまり、胡錦濤ラインの人事強化を阻止するために、上海グループが何事か仕掛けたのではないか……という話なのだが。
 普通に考えると、というか日本人の感性から考えると、いくら何でもたかが権力闘争でオリンピック開催直前のこの時期にそこまでやるか、と信じがたいのだが、これが有り得なくもないのが中国政界の底知れなさである。中南海の権力中枢さえ握ってしまえば(あるいは敵にそれを握られなければ)あとでどうとでもなるという発想に、おそらく抗えないのだろう。
 近隣諸国にとっては頭の痛い話ではある。
 
 で、そうした中国国内の政治的意思決定の構造を良く知れば知るほど──つまりは「親中派」の人間であればあるほど、外交問題で中国政府を面と向かって非難することの無意味さを、困ったことに「理解」できてしまう。
 外交問題で前面に出てくる当事者の面子を潰してしまえば、その人物の中国国内での発言力や権力を損ね、却って問題解決に繋がらなくなってしまう。何故なら、冒頭で触れたように、本質的に中国に「外交問題」なるものは存在しないからだ。
 そんなわけで、「親中派」の人々の発言はどんな問題でも微温的なものに終始しがちで、遂にはこんな発言まで飛び出してくる。
 
Yahoo!ニュース:<福田首相>映画「靖国」上映中止、「誠に遺憾」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080402-00000155-mai-pol
※ヘッドライン上にはないが、記事中、福田首相北京五輪開会式への対応について「中国が努力している最中に、参加するとかしないとか言うべきではない」と発言した旨が掲載されている。
 
「対中国」のコミュニケーション手法としてひとつの見識ではあるのだが、問題はこれも度が過ぎると今度は我が国の「内政問題」として、「民主主義国家」としてのアイデンティティをあやふやなものとしかねないというリスクが孕んでくることだ。「外交」が「内政」と接続されているのは、何も中国だけの問題ではない。
 まぁ、身を削って胡錦濤に貸しを作るってのもありだろうけどもね。中国人はこの手の個人的な「貸し」については、率直に後々まで恩に報いてくれる傾向があるから。とは言え、今の福田政権にのんびりよその国に恩なんか売ってる余裕があるのかという話ではあるが。
 自国の「内政」をかんがみても、どこに落としどころを作るべきかつくづく頭の痛い話である。
 フランスが開会式をボイコットって言ったって、あいつらも中国に武器売るのやめたわけでもないしなぁ。
 だからと言って、日本列島がハワイ沖に引っ越せるわけでもなく、まぁ、ご近所づきあいというのは得てしてこの手の面倒ごとの積み重ねであると肚を括るしかないのかもしれない。