積読日記

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樺薫『めいたん メイドVS名探偵 (ガガガ文庫)』

めいたん メイドVS名探偵 (ガガガ文庫)

めいたん メイドVS名探偵 (ガガガ文庫)

 ……まぁ、一応、読み終わりましたので。
「こき下ろすような書評ならしないでくれ」みたいな寝惚けた発言する某出版社編集みたいな方もいらっしゃるようですけど、語るに値しない作家なら頭から無視しているので、作家も編集者もその点はあらかじめご理解いただきたい。
 
 さて。
 ハードボイルド文学が勃興し、古き佳きメイド文化が終焉を迎えんとしていた大戦間期を舞台に、名家のスキャンダルを暴いて潰すことで名を上げたい探偵と、職場と雇用主を護らんとするメイドの密やかなる攻防戦──という基本コンセプトの着眼点は良い。見事、と言っていい。
 なのだが、そこにメイド文化やらSF勃興期の薀蓄ネタに、五稜郭戦後、英国に亡命した土方歳三が実は「女」で「士道」ならぬ「メイド道」を打ち立てたなどいうネタまで仕込むには、薄めの文庫一冊ではあまりに尺が短い。
 加えて、この歪んだ世界観を確立させるためか、本来、脇のネタであるべきその辺の話の描写に本の半分以上を費やし、肝心の探偵とメイドの攻防戦が非常にしょぼくれたものとなってしまっている。
 端的に、「構成の失敗」である。
 以上。
 
 ……で、終わってしまっては新人さんにはあまりに可愛そうなので、若干、「良かった探し」もしてみよう。あくまで新人さん向けのご祝儀ではあるが、そのくらいは許されよう。
 先ほど着眼点の良さを褒めたが、それ以外にも個々のシーンの文章そのものはそれほど悪くはないのだ。「格調高い」だの「芳しい」だのというほどではないが、読んでいて文脈が追えなくなるほど酷いわけではない。「普通」といえばそれまでだが、詩人じゃないんだから「普通」であることは決して悪い話ではない。
 メイド文化に対する薀蓄も、まぁ、それなりに腰を据えて勉強したらしき痕跡が見受けられる。勉強の労を惜しまない新人は、いずれきっと報われるだろう。
 ただやっぱり勉強のしすぎか設定を捻りすぎたのがすべてのガンとなっていて……。
 これは、やっぱり売りを一本に絞って、そこにリソースを集中的に注ぎ込むべきだったよなぁ。
 でも読んでいると「メイド文化」へのこだわりほどには、「推理」や「サスペンス」に作者が関心を持っているようには感じられないんだよなぁ。
 けど「正統派メイドもの」は『エマ』を読めばお腹いっぱいなので、そこを深堀りしても報われそうにない。つか「正統派メイドもの」を目指すには、微妙に萌えを狙っている描写が多く(しかもちょっと外していると思われる)、「メイド・プロパー」(そんなものがいるのか知らんが)には逆に反発買いそう。
 う〜ん、「良かった探し」になってないな。困った。
 
 これだけボロクソにこき下ろしはしたものの、それでもこの新人さんの着想は悪くないと思うのですよ。
 余計な脇の薀蓄ネタや屈折し過ぎて腸捻転でも起こしているような設定をすべてそぎ落として、探偵とメイドと真犯人が名家を舞台に、頭から最期の一行まで丁々発止の攻防戦を繰り広げ、どんでん返しに次ぐどんでん返しの練りに練ったプロットでどんと打ち出してきてくれたら、自分は諸手を挙げて歓迎していると思う。
 その意味でちょっともったいない作品になっちゃったなぁ、というのが正直な感想。
 ま、何だ。
 次、頑張れ。