積読日記

新旧東西マイナー/メジャーの区別のない映画レビューと同人小説のブログ

■Twitter               ■Twilog

■小説を読もう!           ■BOOTH:物語工房
 
各種印刷・製本・CDプレス POPLS

2014年度3月分総評

3月の鑑賞本数は10本。少なめなのは原稿書きに集中してたからですね。
で、この月のMVPは『小さいおうち』になります。

小さいおうち Blu-ray

小さいおうち Blu-ray


『小さいおうち』予告編 - YouTube

この月はそもそも本数が少ないので、大作映画と呼べるのは『ホビット 竜に奪われた王国』と『ロボコップ』くらいですか。
ホビット 竜に奪われた王国』は三部作の真ん中で単体での評価が難しいし、『ロボコップ』はこの監督(ジョゼ・パジーリャ)の前作『エリート・スクワッド』『エリート・スクワッド ブラジル特殊部隊BOPE』(どちらもブラジル映画)の方がよかったかな。まぁ、あの悪趣味感は、バーホーベンの正統後継者として素晴らしかったのですが。
実写版『魔女の宅急便』は……キキ役の小芝風花の元気いっぱいさで救われたということだけ。ハリウッド並の予算をCG(特に飛行シーン)に掛けられない以上、最初から負けの決まっていた勝負なので、スタッフを責める気にはなれないんですけどね。
 
で、他に観た作品がいずれも小粒ということもあり、山田洋二監督の『小さいおうち』になりました。
 
戦前から戦中にかけての東京郊外の小さな洋風の一戸建てを舞台に、そこに住み込みで働く女中の少女の目を通して、描かれる奥様の不倫劇──それだけと言ってしまえば、それだけのたわいもない話なんですが、それが戦争へと傾斜する時代を背景とすることで、少女の心にざっくりと罪の意識を刻み込む悲劇と化してしまう、その時代の不条理を描いた作品です。
個人的に「ありふれたホームドラマが、激動の時代を背景とすることで意味を転ずる」という構造のお話をどこかでやりたいと思ってたので、その意味でも興味深く観させてもらいました。
 
戦前の日本は単純な暗黒時代ではなく、戦時下であっても人々がそんなに毎日戦争を意識して下を向いて暮らしていたわけでないことを示し、そして、だからこそ誰もが気楽に構えているうちに、気がついた時には、国中が取り返しのつかない状況に陥ってしまっていたこと。……。
不倫劇を上品にかつ艶っぽく描きながら、さりげなく、どすんと肚にぶち込んでくる老監督の手腕に慄然とせざるえません。
スンマセン、山田洋二、舐めてました!m(--)m
山田洋二というと、『寅さん』とか『釣りバカ日誌』など、松竹大衆演劇路線で「どうせお涙ちょうだいだろ」とか構えていた私が、悪うございました。
ベタな部分もそりゃあありましたが、演出的にポップに攻めてる部分もあったり、語り過ぎずに非情に断ち切るシーンもあったり、いろいろ凄かった。
老監督、あなどるべからず、です。
 
それはともかく。
映画というのはそれが撮られ、公開された時代の文脈と不可分であるとするなら、2014年というこの時代にこの映画が公開された意義も踏まえ、今の時代に観るべき価値のある映画であると思います。
 
あ、あと、ヒロインの女中役を務めた黒木華は、本作で第64回ベルリン国際映画祭最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞しています。(主演女優は奥様役の松たか子)
絶妙にどんくさいところも含めて、実に見事な「昭和の女中さん」でしたのでそこも必見。