積読日記

新旧東西マイナー/メジャーの区別のない映画レビューと同人小説のブログ

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監督:マイケル・マン『マイアミ・バイス (ユニバーサル・ザ・ベスト第8弾) [DVD]』

 公開初日の新宿プラザ(1,044席)、夕方から夜にかけての回を観てきました。入りは6割強。以外と年配の客が多かったような。

 ご存じない方のために簡単におさらいしておくと、この映画の元になったTV版『マイアミ・バイス』は、その名の通り、マイアミ警察風俗課(バイス)に所属するソニークロケット刑事とリカルド・タブス刑事、そしてバイスの仲間達の、オトリ捜査や潜入捜査が日常的に行われている日々を綴ったものだ。それ自体、TVの刑事ドラマとして斬新だったのだけど、それ以上に主人公達のスタイリッシュなファッションや、最新の音楽を当時流行り始めたMTVばりに映像とシンクロさせてガンガン流し、そのくせ、ガンアクションや脚本にもおさおさ抜かりないという化物番組だった。
 84年の放映開始以来、本国だけでなく瞬く間に世界中で放送され、若者の心を鷲掴みにした。かくいう僕もその内のひとりで、深夜に放送されていたこの番組を観るために、家人の寝静まった頃にこっそりリビングのTVにかじりついていた。勿論、当時ビデオがウチになかったからだ。
 まぁ、そんな思い出話はともかく、自分にとっては今の自分の趣味嗜好の一部を明確に形成した特別な作品である。TVシリーズの方に興味を持たれた方は、今ちょうど初期シーズンをテレビ東京で平日のお昼にやってるし、CSやケーブルが観れる環境の方なら、AXNのような海外ドラマ系チャンネルで関西の『じゃりん子チエ』張りに年中リピートが掛かっている。第1〜2シーズンのDVDボックスも手頃な値段でリリースされているので、そちらもどうぞ。
 そんなTVシリーズのプロデューサーであるマイケル・マン自らメガホンを取ったとあらば、これは期待せずにはいられない──のだが、う〜ん、でも最近のマイケル・マンは、あの頃とテイスト違うからなぁ……。

 結論から言ってしまうと、TVシリーズとははっきり似て非なるものだ。
 同じマイアミを舞台とし、潜入捜査官であるソニーとタブスが主人公ではあるのだけど、TV版と違って終始どシリアス一辺倒なので全編重苦しい空気がつきまとっている。
 いや、嫌いじゃないですけどね。でも、これはやっぱり、僕の知っている『マイアミ・バイス』とは別物だ。
 TV版では、根底に同じようなシリアスで絶望的な空気を漂わせながら、表面的にはどこか飄々としたテイストで覆われていた。ソニーやタブス達は理不尽で不条理な現実の前に苦悩もするが、危険な突入の前に軽口を叩く余裕があった。熱帯の闇に潜む巨悪の凄みを描く一方で、愛すべき小悪党達の生態をユーモラスに語ってのけた。南国の強烈な日差しと、ぬめるような湿気を孕んだ夜の闇──その底で繰り広げられる犯罪者達の饗宴に潜入し、死の危険と隣りあわせで悪党どもと対峙するバイスの刑事達。……。
 その辺の躁鬱相半ばする南国の狂気のようなテイストがさっくりカットされてるのが……う〜ん。
 
 ただそのテイストの変更は、明らかに自覚してやってるんだろうなというのは判る。
 ソニーコリン・ファレル)もタブス(ジェイミー・フォックス)もTV版とは演技の方向性が全然違うしね。TVシリーズと映画では尺の違いもあるから、TV版のようにキャラの掘り下げがし辛いという事情もあったろう。
 ただ、ここ最近の『コラテラル』などのマイケル・マン監督作品を観てると、この人、元々こういうどシリアスな話をやりたかったんだろうなという気がしないでもない。してみると、TV版の初期話数で救いのない絶望的なエピソードが続いた辺りこそ、マイケル・マンが本当にやりたかった『マイアミ・バイス』だったのか。その意味で、上記で僕が挙げたTV版『マイアミ・バイス』のテイストは、むしろソニー役のドン・ジョンソンが後に手がけたTVシリーズ『刑事ナッシュ・ブリッジス』にこそ引き継がれたようだ。
 ……うん、まぁ、TVシリーズで、何シーズンも延々、陰々滅々とした潜入捜査官の悲哀なんか流されても、視聴者はたまったもんじゃないしな(本当にやったら、それはそれで尊敬するが)。
 
 そんなこんなで、ここまでTV版との違いに触れてきたのだけど、逆に車やボート、飛行機などのメカを艶かしく描くマイケル・マンお得意のカメラワークや、銃の使い方や潜入工作の作戦の組み立て方など全編にみなぎるプロフェッショナリズムの緊張感は健在。ラストのガンアクションなど、派手な銃撃戦なのに互いに足元を狙う嫌らしさ(笑)とか、玄人向けすぎて一般客には伝わらないところに妙に力を入れてて、好感が持てる(そうなの?)。この辺もなぁ、並みのハリウッド映画ならど派手な爆発のひとつやふたつ仕込むところを、身も蓋もない力ずくの殴り合いみたいな銃撃戦で強引に締めるところが、いかにもマイケル・マンらしいっちゅーか、なんというか。俺は好きだけど、一般受けしないだろーなぁ。
 え〜っと、それ以外では、漢(おとこ)以外に興味のないマイケル・マンにしては頑張って、コリン・ファレルコン・リーがエロエロでラブラブな展開になります。女性の観客にもちゃんと目配せしてますよ、というスポンサーへの言い訳のような気もしないではないけど。それでもスーツでびしっと決めたハードなビジネス・ウーマン然としたコン・リーがめろめろ(死語)になってゆく下りはちょっとそそられたのも事実。まぁ、それを言うなら、もうちょっと情念ドロドロに掘り下げが欲しかった気もしましたが。
 落ちもここまでシリアスにきたんだから、中途半端な希望を残さず、もっと突き放すような非情さで締めてくれてもよかったんだけどなぁ(冷静に考えると、あの落ちも大概希望のない落ちなのだけど)。そこは、むしろTV版の方が身も蓋もないエピソードが少なくなかったかも。いやいや、ハリウッド映画の体裁を維持するには、これが限界だったのか。
 
 マイケル・マンの最新作としては及第点、刑事もののバディ・ムービーとしては高評価をあげてもいいが、TV版『マイアミ・バイス』のリメイクとしては点が辛くならざる得ないなぁ。いや、よくできた映画ではあるんだけどね。