『週刊少年サンデー』31号
総評
今週は何はなくとも『クロス・ゲーム』に言及せざる得ないんですが、そっちは個別レビューでやるとして、次号から井上和郎の新連載『あいこれ』が始まることが唐突に告知されました。
『美鳥の日々』が終わって2年弱くらいですか。そろそろじゃないかという下馬評は上がってたんですが、ファンとしては待ちに待ってた新連載です。
この井上和郎は短編『葵ディストラクション』でサンデー読者の前に衝撃のデビューを果たして以来、「ちょっと変」な設定のラブコメを手掛けてきた人です。前作にして出世作ともなった『美鳥の日々』なんか、文字どおり「右手が<恋人>だったら」なんていう下品すれすれの際どいネタの設定に、変態独自の倫理観に溢れた登場人物達を次から次へと放り込んで、しかし読み終えてみれば手堅い王道ラブコメを思わせる爽やかな大団円にまとめ上げてしまったというとんでもない作品でした。
この『美鳥の日々』での井上和郎の演出ロジックの凄みについては、下記のURLでのレビューが詳しいのでそちらを当たっていただくとして、富士鷹ジュピロ藤田和日朗門下らしい、地に足の着いた作劇力・演出力を持った作家さんだと言えるでしょう。
■漫画な。(ひとりマンガ夜話):美鳥の日々 5巻/井上和郎
http://manga.way-nifty.com/readonly/2004/04/post_11.html
現時点では、次週予告のカットしか公開されていないんですが、ちょっと気の強そうなヒロインはもろ僕のストライクゾーン(笑)。
翌々週の33号より新連載の椎名高志の『絶チル』と併せて、今年の夏は久しぶりにテンションの高い『サンデー』が楽しめそうです。[文責:義忠]
畑健二郎『ハヤテのごとく』
巻頭カラーで、今度はハヤテ自身が自分の高校を訪れる話。
……え〜っと、白鳳学園編は前回のあの引きで終わりだったの?
普通ならもう2〜3週は引っ張っていただろうところを、惜しげもなく次の展開へ突っ込んでゆきますな。
しかもいきなりハヤテ告られてるし、おまけにハヤテから振ってるし。
この辺のスピード感は、いい意味で若さゆえなんでしょうな。[文責:義忠]
あだち充『クロス・ゲーム』
……本当に殺しちゃいましたね、月島家の次女。
フェイクだと思ったんだけどなぁ。
ただまぁ、これまでのあだち充の作品群を眺めてみると、主人公の身近な人間の死が駆動点となるという物語構造を持っていることが多く、誰がいつその役目を担うのかはともかく、この展開はある種の必然であったと言えなくもない。
『タッチ』は言うに及ばず、『H2』でもそうだったし、前作『KATSU!』に至っては主人公が生まれる以前の実父の「死」が物語の発起点だった。『KATSU!』の場合は、その実父の遺した「物語」を受け入れることに主人公が最後まで納得しようとしなかったことが、作品としての敗因があったように思う。
いずれにせよ、あだち充にとって「物語」の重心に「死」を置くことは、作家としての物語原型(アーキテクチャ)の根幹に関わるほどの切実な問題である可能性が高い。
で、そこでこの作品でのこの「死」に秘められた意義なのだが……これがどうもよく判らない。
ライトなラブコメをやるのにこの幼い「死」は重過ぎる。
さりとて、野球をやるのに彼女が死なねばならない必然性はない。
しかしながら、あだち充は、意味もなくこんなことをしでかす作家ではない。
これらの命題から導き出される結論は──なんでしょうね。
下手なミステリより先が読めなくなりましたな。[文責:義忠]