積読日記

新旧東西マイナー/メジャーの区別のない映画レビューと同人小説のブログ

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『ファウスト』Vol.5

 で、まぁ、仕事で修羅張りながら、通勤電車の中でぽつぽつインタビュー記事などに目を通しているわけなんですが。
 
 雑誌とは、得てして編集者の個性が非常に色濃く出てしまうもので、この雑誌の場合、間違いなく編集長の太田克史氏の個性がそれ。それはまぁ、この雑誌に掲載されているインタビュー記事に片っ端から司会者として顔を出している辺りからも、判り易すぎるほどに判ってしまう。つーか、「雑誌の個性云々」というのは本来そういう意味ではないような気もするが、めんどくさいのでその辺はスルーする。
 で、この『ファウスト』という雑誌に対する以前から感じていた、いわく言いがたい、非常にもにょもにょした感覚の原因が、『ひぐらしのなく頃に』に関するインタビューとトークセッションや、『Quick Japan』を立ち上げた名物編集者・赤田祐一へのインタビュー(というより対談だよね、あれは)から何やら見えてきたような気がする。
 この太田克史という人は、こういう雑誌を成功させているくらいだから、間違いなく才能がある編集者であり、同時に講談社社員一筋の、まぁ、とても筋のおよろしい方なわけだ。
 で、奈須きのこだとか今回の竜騎士07だとかとへのインタビュー記事の中で、この両者が同人というシーンから出てきたことの意義だとか、価値だとかを非常に熱心に美辞麗句を重ねて語るわけなのですよ。でも、その実、本人の同人経験は「文芸フリマ」で著名な作家を集めて作った本300部が速攻で売り切れた、と、そのくらいしかない。コミケで文芸界隈の通りが「高速道路」と呼ばれる悲哀も知らない。そんな人間が、初めて出した『空の境界』がコミケで6部しか売れなかったところから這い上がった奈須きのこ竜騎士07に対して、同人の何事かを語るその状景は、あまり見ていて気持ちのいいものではない。
 ただ、この人に供わった可愛げは、そのことにかなり自覚的であるという点にある。『空の境界』の同人版が流通に載るまでその存在を知らなかったことを、自身の不覚として認めるだけの度量はあるわけだ。
 しかし、そこまで判っているなら、文芸同人の本当の最前線を自分の足で歩いてみればいいのに。そこには才能のきらめきもあれば、諦観めいた澱んだ停滞感もある。1日に10冊、20冊も売れれただけで、ちょっとしたプチ大手気分になれるという、凄惨な戦場。優れた作品を書く「戦友」たちが、日々の生活の前に次々と膝を屈し、筆を折る。その地獄のような状景を目の当たりにしながら、しかし、倦むことなく、己の才能を信じて創作活動を続けるということがどういうことを意味するのか。
 間違いなく、こここそが最前線なのだ。こここそが、本当の「兵士」のいる場所だ。
 ここに一度足を踏み入れれば、文壇の前衛を気取るこの『ファウスト』すら銃後の安全地帯でしかないことが知れるだろう。この地獄を知らばこそ、今日の奈須きのこだあり、竜騎士07があるのだ。
 ここから自分自身の目と足で才能を見出してみせたなら、『ファウスト』を真剣勝負(ガチ)な雑誌であると認めてやってもいい。
 ……いや、まぁ、認められたからといって、別に何かいいことがあるわけでもないんだけどもね(おい)。