積読日記

新旧東西マイナー/メジャーの区別のない映画レビューと同人小説のブログ

■Twitter               ■Twilog

■小説を読もう!           ■BOOTH:物語工房
 
各種印刷・製本・CDプレス POPLS

三雲岳斗『絶対可憐チルドレン・THE NOVELS~B.A.B.E.L.崩壊~ (ガガガ文庫)』

絶対可憐チルドレン・THE NOVELS~B.A.B.E.L.崩壊~ (ガガガ文庫)

絶対可憐チルドレン・THE NOVELS~B.A.B.E.L.崩壊~ (ガガガ文庫)

 原作はご存知、椎名高志のアニメ化作品。
 実はまだ読み始めたばかりなので、正式なレビューはまた後日。
 今日はその代わりガガガ文庫の最近の動きについて、少しばかり。
 
 同じ椎名高志の『GS美神』がちょうどアニメ化された頃、小学館ライトノベルに手を出して、結局、数年で撤退してしまった過去がある。当時のラインナップに『マクロス』のノベライズも含まれていたのも、今にして思えば何やらいろいろ因縁深い気もするが、結局、当時のこのSQ文庫は後に『不夜城 (角川文庫)』で一世を風靡する馳星周が「古神陸」名義で小説を書いていたことだけをほぼ唯一の功績として幕を閉じた。
 ただサンデー作品を始めとする小学館が抱える良質のコミック・コンテンツをライトノベルや映像作品と連動させるというメディアミックス戦略自体は間違ったものではない。当時でさえ既に角川や徳間という成功例のあるビジネスモデルだったのだが、ただ当時はまだ小学館内部でのライツ戦略が明確でなく、映像やコミックとの連携もせいぜいノベライズ──それもアニメの脚本家や新人作家レベルに書かせる程度に留まってしまったため、せっかくのノベライズもファングッズ以上の存在になりえなかった。
 真実、効果的な「メディアミックス」を狙うなら、小説からも原作であるコミックのパワーに負けないだけの力のある作品をぶつけないと意味はないのだ。
 結局、そこがSQ文庫の限界だったように思う。
  
 で、今回の小学館のリベンジでは、その辺りの反省もあってか、沖方丁やら佐藤大やらの映像関係に目端が利く連中をブレーンに迎え、ニトロプラスと積極的に組むなど、勢いのあるエロゲ業界*1から人材を募り、実力のある作家を投入するという戦略を取っている。
 まぁ、それができるのも資金力のある小学館だからこそだが、それでも『めいたん メイドVS名探偵 (ガガガ文庫)』のような作品まで戦線に投入せざる得なかった辺り、レーベル創刊直後の攻勢に息切れが出た様子が見て取れる。作家が悪いとか編集が悪いというより、グラマン七面鳥撃ち(ターキーシュート)されるのを承知で、技量未熟の若年兵(ジャク)を戦線に投入せざる得なかった先の大戦での帝国陸海軍航空隊を偲ばされ、涙を誘う。たとえ3日で書店の棚から外される作品でも、少なくとも「3日は他社レーベル作品の陳列を阻止できる」わけで、たとえ紙くずであってもリリースすることには意味があるのだ。過酷なラノベ戦争の生んだ悲劇と言えよう。総員、帽振れ〜。(号泣)*2
 こうした新人作家たちによる貴重な時間稼ぎなども挟みつつ、ここに来てようやく安定した戦力投入ができるようになってきたようではある。
 ……いや、まぁ、そうは言ってもラインナップの全作品を読む気もないので、相変わらず無茶な作品が混じっていないとは言い切れないのだが。
 
 そこでようやく本作の話。
 この原作に三雲岳斗ってのは、福井晴敏に『ガンダム』をノベライズさせるくらい反則技じゃねぇかと思うが、一方で「ノベライズ」というのはこのくらい本気でやらないと原作に喰われかねないという話でもある。その意味で、小学館がSQ文庫の時代からやろうとしてやり切れなかった「メディアミックス」がようやく本格稼動し始めたのかという感慨もなくはない。
 序盤をざっと眺めた限り、原作者の椎名高志のデビュー以来の持ち味であるSF的センスと長年の週刊連載を経て培われたキャラ立てとストーリーテラーとしてのセンスをしっかり受け継ぎ、なおかつ自分のカラーを乗せて打ち返してのけている感がある。ここまでの芸当は、いや確かに三雲岳斗クラスのベテランにしかできまい。
 しかし、このクラスの作家は別にノベライズなぞしなくても、オリジナルのコンテンツで勝負できる力量があるのだから、よほどのことがない限りノベライズの仕事なぞ受けてはくれない。
 それができるのは、勿論、原稿料もあるのだろうが、「あえてやりたい」と作家に思わせる原作があっての話だ。
 その意味で、それだけの魅力のある原作を山ほど抱えている小学館なればこその企画で、その他の後発ラノベ・レーベルの編集からすればやっぱり反則だよな。
 しかし、読者にしてみれば裏の事情なんざどうでもいいわけで、目の前にある「夢のコラボレーション」に素直に狂喜していればそれでいい。
 しかもこの後、虚淵玄の『BLACK LAGOON』が控えているという。この原作にこの作家を組ませて書かれる小説を「ライトノベル」と呼んでいいのかはなはだ疑問ではあるのだが、まぁ、これもまた「夢のコラボレーション」であることには間違いない。
 こういう反則級のコラボレーションを今後もどんどん投入してくれるのなら、大歓迎だ。
 いいぞ、もっとやれ。

*1:実は外部から見るほど往時の勢いはない、という観測もあるが。

*2:ちなみに『めいたん』の作者は来月には2作目がリリースされるとのこと。うん、頑張れ。