積読日記

新旧東西マイナー/メジャーの区別のない映画レビューと同人小説のブログ

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桂正和『I''s』

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 で、その寝正月中に立ち寄ったTUTAYAで、そういえば監督が神戸守だったことを思い出して借りてきた作品。ついでに原作の方の新装版も1〜2巻とも一緒に衝動買いしてしまいました。
 アニメ自体はやはり佳い出来で、神戸守監督の演出力の素晴らしさを再確認。
 図書室のシーンは切なさに泣きそうになりました。
 ただし、ここではアニメ版のレビューではなくて、原作の『I''s』を肴に少年誌における恋愛コミックの在り方などをつれづれながらに語ってゆければなと思っています。
 なお、資料的裏づけなど取らずうろ覚えの記憶にだけ頼って書いてゆきますので、突っ込みは大歓迎だけど責任は一切取りませんからよろしく(おい)。
 
 さて、あらすじや基本的な作品解説については、Wikipediaに項目が立てられているのでそちらを参照してもらうとして、本作はマンガ史観的にはだいたい以下のような歴史的経緯の下に生まれた作品である。
 80年代半ば、「少年サンデー」による圧倒的なラブコメ攻勢――いわゆる「あだち充ショック」の前に少年ジャンプ編集部は震撼した。当時のサンデーはあだち充高橋留美子という、20年後の今日においてもなお通用するラブコメ表現・演出論の基盤を創った両巨頭とその強い影響下にある作家群からなる鉄壁の布陣を敷き、「努力・友情・勝利」のお題目を捨てきれないジャンプ編集部の追随を許さなかった。当時のジャンプ編集部の恐慌状態が如何ほどのものであったかは、あだち充を引き抜こうと実際に接触まで持ったというエピソードに集約される。*1結局、あだち充にあっさ振られたジャンプ編集部は、自前の戦力でラブコメ全盛の時代に立ち向かわねばならなくなり、そこで白羽の矢を立てられたのが桂正和だった。ライトな変身ヒーロー物のデビュー作『ウィングマン』はアニメ化までされたスマッシュヒットとなったが、この作品自体、ラブコメ色が強く、また絵の雰囲気も当時の他のジャンプ連載陣と比べて軽やかで「軽薄短小」が持て囃される時代の空気とマッチしているように思われたのだろう。何よりも『ウィングマン』時代からヒロインの「パンチラ」描写に注がれる情熱には、当時の男子中高校生読者から熱烈な歓呼と信頼を得ていたものである。
 そんなわけで桂正和とジャンプ編集部は、『電影少女』『D・N・A2〜何処かで失くしたあいつのアイツ〜』とSFタッチのラブコメ作品を送り出しつつラブコメ作品のメソッドを徐々に磨き上げてゆき、遂に「ラブコメ」というより「少年誌における恋愛コミック」として完成の域に達したのが本作『I''s』である。*2
 と同時に、本作の連載が終了した直後くらいから時代は「萌え」の時代へと移り、「恋愛ドラマ」としての完成度が少年誌の商業面であまり意味をなさなくなってしまったというのも皮肉な話ではある。
 
 ……あ〜、多分この先も長くなりそうなので、ちょっとづつ連載ってことにしますか。
 次回は『I''s』で桂正和とジャンプ編集部は、「何を完成させたのか(完成させてしまったのか)」の具体的な中身について説明します。

*1:ちなみにその動きは完全にサンデー編集部に掌握されており、万に一つの可能性もなかったという。

*2:ただし、『ウィングマン』からいきなり一連の恋愛物の作品群に移行したわけではなく、ヒーロー物や演歌歌手(…)の話などの連載を手掛けては打ち切られるという迷走の時期が若干ある。