椎名高志『椎名大百貨店 (サンデーGXコミックス)』
- 作者: 椎名高志
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2008/05/19
- メディア: コミック
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『週刊少年サンデー』編集部は、デビューしたての永井豪を適当にあしらって後で手のひら返したり、最近も『金色のガッシュ!』の雷句誠に絶縁宣言叩きつけられたりと、いろいろと人間的にどうなのと思われるところもなくはないのだが、ただ既刊コミック売上累計2億冊(!)のあだち充を引き合いに出すまでもなく、作品だけでなく作家自身が本邦マンガ界の生きた財産ともいうべき息長く現役を続けられる人材を多数輩出しているのも事実だ。
そのベテランが本誌にいつまでも居坐って、新人を連載前のポジションで無駄に買い殺しにしているという側面もあるので、一概に良い面ばかりではない。しかし、それは同時にベテランが新人以上に一作ごとに大胆なメタモルフォーゼを繰り返すので、あえて新しい血を入れる必要性があまりなかったということでもある。
逆に言えば、サンデーで生き残れるのは、絶ゆまざる自己革新のできる作家のみ、ということだ。
……まぁ、雑誌全体としてそれが成功したビジネスモデルなのかと問われると、100万部を割り込んで久しい販売部数がすべてを物語っているのだけど(爆)。
それはさておき。
椎名高志はそうした「メタモルフォーゼ」を行う能力を持った作家という意味で、正当なサンデー作家の系譜に連なる作家の一人である。
とはいえ、完成された連載作品だけを追っていると、才能だけでその「メタモルフォーゼ」を成し遂げ、次々とヒット作品を物にしているように見えてしまうが、そんなに都合よくゆくわけがない。各作家ごとにやり方はそれぞれだが、椎名高志の場合、連載間期にこうした短編を大量に描くことで次回作の方向性を模索しているのだ。
実際、『絶チル』も、こうした短編の内の一作としてプロトタイプの短編が発表され、そこから2年もの歳月を掛けて連載作品に仕上げていっている。
「ヒット作」を生むというのは、椎名高志ほどの才能と実力の持ち主でもそこまでやらねばならないものなのだ。
……と、まぁ、難しい話はこの辺にして。
しかし、収録の『パンドラ』辺りを読んでも思うのだが、やっぱり椎名高志のヒロインは微妙に「萌え」とはずれてるんだよね。読者に媚びているように見えて、メタ的にその状況を眺めているような知的な視点が常に存在していて無邪気に「萌え」に読者が没頭するのを阻害するような印象を与えてしまう。
ただ、でもそれが「椎名高志」だしなぁ……。
一方、自分の欲望に素直に暴走するヒロインを描かせると実に魅力的なのも事実で、結局は世間一般の「萌え」がどうだろうと、自分の売りをどう効果的に読者にアピールしてゆくかの戦略の問題なのだと思う。
いやいや、勉強になります。