積読日記

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竹宮ゆゆこ『とらドラ!〈8〉 (電撃文庫)』

とらドラ!〈8〉 (電撃文庫)

とらドラ!〈8〉 (電撃文庫)

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とらドラ! 1 (電撃コミックス)

とらドラ! 1 (電撃コミックス)

レジーニャ とらドラ!  逢坂大河 (1/7スケールPVC塗装済み完成品) レジーニャ とらドラ! 櫛枝実乃梨 (1/7スケールPVC塗装済み完成品) レジーニャ とらドラ! 川嶋亜美 (1/7スケールPVCフィギュア)
 さっそく読み終えましたので、いざレビューをば。
 あ、ちなみに例によってネタバレ全開ですので、よろしく。
 
 前巻ラストで櫛枝実乃梨からクリスマスイブに「告白拒否」されて撃沈し、さらにインフルエンザで40度の高熱まで出して年末年始に入院する羽目になった竜児だったが、すさみきった傷心の少年の都合なぞ関係なく、否応もなく冬休みは終わり3学期がやってくる。
 一方、クリスマスイブ以来、「ひとり立ち」を宣言して竜児と距離を取り始めた大河は、懲りずに実乃梨と竜児をくっつけようと竜児を追い立てる。
 大河以下、周囲のおせっかいのおかげでのんびり落ち込むことも許されない竜児だったが、それでも何とか立ち直って、実乃梨の真意を知る最後のチャンス──沖縄スキー修学旅行へと賭けることに……。
 
 アニメ化も決まり、作中の人間関係も煮詰まって一触即発の最新巻。
 前半は振られて傷心の竜児が、地方在住高校生の濃密かつおせっかいな人間関係のおかげで、さらにどん底に叩き込まれるお話(爆)。うん、そうね。女子って、失恋したての男子のセンシティブ(笑)な心理状況って一切頓着しないよね。目の前で腹をよじらせてガチで爆笑されたり、振った当の本人から「でもアタシ達、これからも友達でいようね」とか爽やかに宣言されて本当にフツーの友達関係を継続させられたり、オカンはクラスの母親会でネタにしやがるし……orz。
 何かこー、竜児の受難が他人事に思えないんですがっ(号泣)。<知らんがな。
 ただまぁ、これはこれで、強引にでも日常に引き戻してやった方が、ひとりで落ち込ませるよりずっといいという彼女たちなりの優しさ──だったのだろうか。いや、あの爆笑には、とても優しさとか、愛情とか、そんな生やさしいものが含まれてたとは信じがたいのだが。(ううう)
 
 ま、そんなあまりに個人的すぎるエピソードなんざどうでもよろしい。
 この巻の白眉は後半、修学旅行先での展開にある。よりにもよって、振るの振られるの、けしかけるの、邪魔するの、諦めるのふてくされるのといった、煮詰まりきった当事者同士で班組みなぞしたものだから、当然迎える殺伐とした人間関係。特に実乃梨と亜美の激突は、さながらプロの狙撃兵が全弾遊び抜き、一撃必殺の銃弾を撃ちあっているかのようで、物騒なこと、この上ない。
 それを主人公の憧れのマドンナ的立ち位置の実乃梨にやらせる辺り、いたいけな電撃男子読者にゆゆこ姐さんから叩き込まれる呵責なきハードボイルド恋愛論の一端が垣間見得て戦慄を禁じえない。どんなキャラにも安全地帯なんざ許されない。戦場の空気が読めない奴は、流れ弾に当たって死ぬのだ。甘ったれたラブコメなんざ読んで、能登ボイスの都合のいいヒロインになんかに萌えてるガキは、トラック50週追加だ。サー、イエッサー!
 
 で、だ。
 自分の幸せより誰かの幸せを祈る姿は、確かに一見、美しい。
 だが、この巻で示される人間関係の錯綜と混乱は、明らかに「利他的」に自分の恋愛から身を引こうとした者によって引き起こされている。でもそれは、やはり形を変えた「エゴ」なんだよね。好きな誰かの幸せを真摯に祈る気持ちに嘘はなくとも、そこにつまんないプライドとか、身近な人間関係壊したくないとか──何より、自分が「幸せ」になることへの怯えが混じっていないはずがなくて、その本人が認めたくない微かな不純物が伝えるべき言葉を躊躇わせ、それはやがて「美談」を無残な修羅場に変えてしまう。
 でもそれを切り分けろってのも無理な話だし、出来ると思ってる奴は、結局、自分に嘘をつくことになるのだ。
 その悲劇をどうやって突破するのかってことがおそらく本作の最終的なテーマなのだろうと思う*1ので、ここでとやかく述べる気はない。
 その過酷で、先の見えない嵐のただ中である苦しさを逃げずに直視しているという点で、本作は既に「ラブコメ」の領域を遥かに深く逸脱しつつあるのだけど、しかし同時にそうでなければ描けないもの、辿りつけないものを描こうとしている気概に満ちた作品でもある。
 まさにその意気や良し、である。
 
 それにしても。
 いやぁ、この局面で大河の母親出してくるとか、ここまで追い詰められて実乃梨も亜美もまだまだ底を打って全面的に開き直るところまで辿りつけてないとか、この上、まだ追い込み掛ける気か、ゆゆこ姐さん。畏るべし。
 ただ、この巻のクライマックスで大河の「真意」を知ってしまった以上、次の巻では竜児の「男」としての器が問われるのも事実。
 ああ、新刊出たばっかりだってのに、またすぐ続きが気になってしまったではないの。困った困った。

*1:勿論、突破できずにその苦い現実とどう折り合いつけるのか、って落ちになる可能性はまだまだあるけど。