積読日記

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『僕等がいた』第21話「…」

僕等がいた (11) (Betsucomiフラワーコミックス)

僕等がいた (11) (Betsucomiフラワーコミックス)

「土曜の晩、両親いないの」と、七美からのお泊まりお誘いイベントに浮かれあがる矢野の元に掛かってきた山本(妹)さんからの電話──
 再び付き合い始めてからバカップルぶりが極まってきたこのタイミングで、一気にひっくり返してのけるプロットの凄まじさよ。
 しかし、家族が倒れてパニクったからといって、よりにもよってまず矢野に電話する山本(妹)さんも山本(妹)さんだが、初H目前の本命彼女を放り出してそっちに駆け付ける矢野も矢野だよな。どっちも理屈じゃない深い部分に衝き動かされての話だけに、始末に終えない。つか、30過ぎの不倫カップルかお前等。
 いや、それなりの人生経験を積んでくると、この二人の理屈じゃない関係性って、判らなくもないんだよね。何というか、あらゆる状況が「こいつと付き合ってもろくなことにならない」と指し示していて、自分自身にもしつこいくらいにダメ出ししてきたのに、ふとしたはずみにどうにかなってしまうカップルって。あるいは、皮膚感のレベルで引き合ってしまう相手というか。
 山本(妹)さんがあれだけ健気な恋する乙女っぷりを示しながら、女性受けがあまりよろしくないのは、こんなのを敵に廻して勝てる自信のある女性はそうそういない、ということでもあるんだろうなぁ。
 で、勿論、どうにかなったからって、決して幸せになれるわけでもないのね。だって、ダメな理由が消えてなくなったわけでもないから。
 何にせよ、矢野と山本(妹)さんの関係は、業が深すぎて当人同士でもどうにもならないところまできちゃってる感があるので、七美は素直に竹内クンとくっつくが吉かと。
 ちなみに、あちこちの感想系サイトを巡ると、矢野より竹内の方が好きという女性も少なくないようで。でもそれは、ドラマとして内面描写がしっかりされているからで、実際に彼のような「いい人」は、そもそも女性の恋愛視野に入れてもらえないんだよね。
「ごめん。あなたのこと嫌いじゃないけど、そういう対象に見れない」とか言われるんだ。畜生。いや、泣いてなんかないぞ。
 あー、何だ。話がずれた。
 とにかく頑張れ、竹内クン。日本中の「いい人」扱いの男の子のためにも。
  
 しかし、別に『ハツカレ』みたいに、「初めて彼氏ができました」という嬉し恥ずかしな学園生活をただ描写しているだけでも、連載を維持するくらいのテンションは保てるだろうに、こうも業の深いプロットをぶち込んでみせねばならない辺り、さすが『Betucomi』クオリティというべきか。
 原作最新巻のあらすじをちら見すると、さらに怒涛の展開が待ち受けているらしい。何というか、『ピーチガール』を観てたときも思ったが、何も中高校生から*1そんな情け容赦のないハードボイルドな恋愛感を構築せんでもいいだろうに、今時の女子も、と思わんでもない。『となグラ!』あたりでもだえてる男子高校生なんざ、完全に周回遅れだ。
 ただそれは、それだけ早くから、恋愛という闘争の苛烈さに身構えねばならない、という暗黙の決意を彼女達は抱いているということでもある。勿論、男の子達だって、世界が「努力」「友情」「勝利」に支えられた無限の闘争の繰り返しであるという、ジャンプ型神話を徹底的に擦り込まれて社会に送り出されている。
 どっちもどっちと言えなくもないけど、何でそうまで僕等は「身構えて」「覚悟を固めて」生きねばならないのか、ぐらい、たまに立ちどまって考えなくちゃいけないのかもしれない。
 まぁ、それは、この作品の面白さと、直接は関係ない話なんだけどね。

*1:コミック版の公式サイトには、小学生の感想書き込みすらあったぞ。