積読日記

新旧東西マイナー/メジャーの区別のない映画レビューと同人小説のブログ

■Twitter               ■Twilog

■小説を読もう!           ■BOOTH:物語工房
 
各種印刷・製本・CDプレス POPLS

『風林火山』第49回 「死闘川中島」

風林火山 (新潮文庫)

風林火山 (新潮文庫)

 武田の軍師・山本勘助と上杉の軍師・宇佐美の軍略の読み合いは紙一重で宇佐美が競り勝ち、武田の別働隊の手を擦り抜けて上杉軍主力は川中島前進
 戦域を覆う朝靄が晴れた時、別働隊を割いてやせ細った武田軍本陣8千の眼前に、上杉軍の主力その全軍1万3千が姿を顕(あらわ)す。
 神掛かった破壊力で襲い掛かる上杉軍の前に、次々と功臣達が斃れ逝く中、別働隊が来着するまでの時間を将兵ひとりひとりの血と肉で刻むように稼がんとする武田軍。
 一方、それまでに決着をつけんと、猛攻に次ぐ猛攻で攻め立てる上杉軍。
 戦野に咽(むせ)ぶ数万の漢(おとこ)達の咆哮と怒声。
 果たして生き残るのはいずれの英雄か……。
 
 てなわけで、一年続いた今年の大河ドラマもいよいよラス前。
 今年の大河ドラマはいずれ劣らぬいぶし銀の芸達者ばかりで、しかもまた非常に男くさいドラマ作りをしてくれたので一年間、実に堪能できました。
 
 しかし、資料で見知っていたとはいえ、川中島決戦前夜の武田・上杉両軍の運動戦の凄まじさにはぞっとしますな。
 どういうことかというと、合戦前夜に上杉軍に夜襲を掛けんと山中を踏破する武田軍別働隊が1万2千、一方、霧が味方したとはいえ、その手を擦り抜け、更に武田本軍前面の警戒線すら浸透突破した上杉軍が1万3千(一説には1万8千)。
 この規模の部隊がたいした脱落もなく夜間に部隊運動を展開できるというのは、よくよくもって所属する将兵の統制が出来ているということで、この時代の軍隊の世界水準からすると頭ひとつふたつ飛び抜けている。だってあなた、GPSも無線もない時代ですぜ。現代でさえ、大軍の夜間行軍には苦労するってのに。
 ナポレオンの軍隊の強さは、兵の足の速さ──同時代の軍隊と比べて驚くほど迅速に分散・集合を繰り返す、部隊運動の高速性と自由度にあったわけだけど、それはフランス革命によって高められた兵員それぞれの社会参加意識の高さにあったわけで、市民社会や大衆社会の成立前の、あくまで近世の田舎領主の軍隊に過ぎなかったはずの両軍にそれができたというのはちょっと尋常ではない。
 理由はどうあれ、この第4次川中島合戦に参加した武田・上杉両軍の士気や統制は、最盛期の大陸軍(グラン・ダルメ)に優るとも劣らないレベルに達していたと言い切っていいと思う。
 そうしたことを考えながら、川中島の平原に展開する上杉軍の車懸(くるまがかり)の陣形の画面を観ていると、その軍勢と真正面から相対する羽目になった武田軍本陣の将兵達の戦慄が容易に想起できて素晴らしい。
 昔の大河ドラマの合戦シーンって、軍の陣形とか金が掛かりそうなシーンは避ける傾向にあったんだけど、今はCGのおかげで観たい場面もちゃんと創ってくれる。
 そりゃあ、史学的には突っ込みどころは山ほどあるんでしょうけど、いい時代になったと思いますよ。
 
 来週はいよいよ最終回。
 両軍の参加将兵総数3万3千に対して、死傷者数2万7千。参加将兵の実に7割を越す血が流された地獄の戦場で、死線の果てに勘助が見たものは?
 さぁ、結末やいかに。