竹宮ゆゆこ『とらドラ!〈7〉 (電撃文庫)』
- 作者: 竹宮ゆゆこ,ヤス
- 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
- 発売日: 2008/04/10
- メディア: 文庫
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結局、昨夜の内に最後まで読了しました。
作中の主人公じゃないけど、おかげで昨夜は朝までうなされて眠りが浅かった。
腹いせ(?)に以下、ネタばれ全開でゆくので、未読の方はお覚悟の程を。
この巻のあらすじは、まぁ、公式でもどこでも読めるだろうからはしょらせてもらうとして、読み終えての第一印象は物語の「本題」がいよいよ前面に出てきたなというもの。故にシリーズ最大のクリフハンガーでラストシーンを迎え、自分も一晩うなされた(爆)。
昨日もちょっと触れたけど、隙あらばと突っ込まれるハイテンションなギャグの糖衣越しに作者が読者に呑み込ませようとしているのは、「孤独との対峙」というしごくまっとうな青春小説というかいっそ教養小説的な主題なのな。しかも作中で主人公たちの活躍で学園総出のイベントが成功するという、物語スタート時点からするとびっくりするくらい主人公たちは社会性を勝ち得ているにも関わらず、その孤独は逆に深化し、耐え切れなくなった者から破断点を迎えようとしている。
そのもっとも顕著なのが、物語当初からもっとも安定しているかのように見えた主人公・竜児が想いを寄せる元気少女・櫛枝実乃梨で、この巻ではよかれと思ってやったことすべてが裏目に出て、本人の意思とは関係なく「最悪の魔女」として状況をひたすらに悪化させている。この辺りの役の振り方はやはり作者が同性だからこその容赦のなさでもあるのだろうけど、それ以上に、自分の創造したキャラの成り立ちについての読み込みが尋常でなく深いのだ。
ぱっと見、「安定している」というのは、時として「安定していなければならない」という脅迫観念に支えられているからである場合が多い。とすると、実はこういうキャラこそ問題の本質が隠蔽され、本人も気づかぬ内に病巣がさらにねじくれて悪化している危険性がある。
そこまでの深いキャラ造形をライトノベルでやるか? というか、まぁ、シリーズが進んでテーマが深化すると自動的に自己崩壊を開始するような女の子だったのだろう。ここまで話が進んで、良かれ悪しかれ物語の台風の目となっておきながら、この期に及んで彼女の人格形成の背景情報がろくに開示されていないというのは、何か意図があるのだろうけど。
で、これまでのレビューでは「女性作家から電撃男子読者」へ語られるというこの作品の消費構造を指摘してきた。しかし、そもそもあらゆる物語はまず第一義として、作者自身の必然性に基づいて語られる。とするなら、こうしたヒロインたちの「孤独との対峙」は作者自身の「女性」としての人格形成のさまざまな側面を分割して再演しているという捉え方もできなくもない。
ヒロインの大河も、何やら『風と共に去りぬ [DVD]』のスカーレット・オハラみたいな結論に例によってひとりで勝手に達してしまっている辺りなんか、誰もが通る道というか、なんというか。
ここで都合よく竜児(男)が戻ってきたりはしない──というか、一回、自分の元に戻ってきたのに、カッコつけて追い返して初めてそれが大間違いだったことに気づくとか、「奇跡」の取り扱いのドライさというか諦観めいた皮肉さに、作者の人生経験の深さが垣間見得て泣けてくる。ああ、判るよ。ゆゆこ姐さんはきっと凄くいい女なんだ。
けれどそれは、作者個人のというより、おそらくは現代女性の誰もが人格形成の過程で直面する課題でもあり、同時にことが男性との関係性の問題でもある以上、我々男子にとっても抜き差しならない問題として必然的に突きつけられてくる。この巻のラストでは実乃梨というチャネルを通じて集積されたそうした関係性の矛盾に直撃を食らい、竜児は見事に撃沈するのだが、それはまさに作品構造を端的に表現した場面でもある。
こうした「孤独の連鎖」を打破する方向に向かうのか、それとも諦観とともに噛み絞めて受け入れるのか、現時点では何とも言えない。
多くの読者は前者を望むだろうが、説得力のない「ウソ」をつくくらいならためらわず後者を選ぶ苛烈さがこの作者にはある。油断は一切できないと覚悟すべきだ。
あとこの巻では「娘から父親への複雑な想い」があちこちに顔を出しており、不思議な印象を残している。
勿論、直接的には亜美による竜児への「あんたは大河の父親になりたいのか、男になりたいのか?」という作品の根幹を問うどストレートな問いかけなのだが、逆にそれはヒロインたち(女)が竜児(男)に何を求めているのかという問いかけともなっており、その意味でも非常に興味深い。
父親を捨てたはずの大河と竜児の母が、その捨てた父親の縁の品を竜児につけさせるというくだりは、彼女たちの決して一面では伺い知れない情念の深さをかいま見せ、男としてめまいすら覚える。
さらりとこういう場面を描いてのけるのが、この作品の凄みなのだよなぁ。
でも姐さん、独し──違った、恋ヶ窪先生(30)がクリスマス・イヴに男より独身女性向けマンション購入講座に走るくだりは涙でくもって前が見えません(号泣)。そ、そんなに自分を追い詰めなくても。
先生にも幸せになってもらいたいものだけど、その兆候がおくびにも見られない辺り、ゆゆこ姐さんのどこまでもハードボイルドな作風に戦慄を禁じえないのであります。
さて、エピソード的にはそろそろクライマックス。
次巻でみのりんが、次次巻で大河の決着をつけて〆かしら。その前に亜美が先に切れて1〜2冊分くらい暴れそうだけど。
いずれにせよ、いよいよ目の離せないこの『とらドラ!』。
ゆめゆめ「アニメ放映するまで待とう」などとお考え召さるなよ。のんびり待つには、この作品は熱すぎまさぁ。