有馬哲夫 著『CIAと戦後日本 保守合同・北方領土・再軍備』
- 作者: 有馬哲夫
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2010/06/16
- メディア: 新書
- 購入: 3人 クリック: 53回
- この商品を含むブログ (14件) を見る
重大事件発生から1年と経たずに膨大な関係者のインタビューをまとめて独自の分析も加えて分厚いハードカバーにしてしまう英米のジャーナリズムもすごいが、こんなハイレベルな政治史の概要を手頃な新書で店頭に並べてしまう日本の出版文化も捨てたものじゃないと思う。
で、内容だが、これまでいまいちイメージが掴めなかった日本のインテリジェント・コミュニティの全体像が、おぼろげながらこの本のおかげで見えてきた。
要するに中枢などないのだ。外務省や防衛省、警察・公安などの公的な法執行機関だけでなく、さまざまなシンクタンクや財団法人、NPO、民間企業等のゆるやかな提携関係が、この国のインテリジェント・コミュニティの実態なのだ。
これは戦後、再軍備の陰に隠れながら同時並行で行われた「インテリジェントの再軍備」の際に、公然と組織化も人材活用も許されなかったことに端を発する。インテリジェント活動に必要な人材や人脈は一朝一夕に養成できるものではなくそうである以上、人材的には戦前の体制から地続きなものとならざる得ない。だが、戦後の世相がそれを許さなかった以上、明確な指揮統制中枢をもったインテリジェント・コミュニティなど望むべくもなかったのだ。
それでもうまくいったのは、日本人の同質性故だろう。互いに何を考えているのか言葉にしなくてもわかるのであれば、国益を巡る不毛な神学論争など無用だ。阿吽の呼吸で役割分担を行い、手にした情報を必要な者の下へと届ける。中枢などなくとも、それが可能だった。
だが、それも今は昔。価値観が多様化しきった今日の日本で、それが通用するとは思えない。
加えて政権交代だ。明文化された法ではなく、属人的なネットワークに依存して形成されていたこの国のインテリジェント・ネットワークは、今、どうなってしまっているのだろう。率直に言って、考えることすら気が滅入る状態にあるのではないか。
本書で描かれているのは、あくまで終戦直後の揺籃期にあってこの国のインテリジェント・コミュニティがどのような産声を上げて生まれてきたのかの記録だ。だが同時に、随所で機能不全を起こしている今のこの国にも通づる、問題の萌芽もそこには秘められている今日を生き抜き、明日への希望を切り拓かねばならない現代の私たちに取って、非常に示唆に富んだ一冊だった。
P.S.
……いや、ま、何より作家にはネタの宝庫だってのが重要で、その意味では小説が何本も書けるだけのネタが詰まった本でした。