2019年:今年のベスト映画10本(日本映画部門)
年末年始に風邪っぴきでぶっ倒れてたのでアップが遅れましたが、2019年のベスト映画(日本映画部門)10本はこちら……。
※順番は鑑賞順です。
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『翔んで埼玉』
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『プロメア』
映画『プロメア』本予告 制作:TRIGGER 5月24日〈金〉全国公開
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『海獣の子供』
【6.7公開】 『海獣の子供』 予告2(『Children of the Sea』 Official trailer 2 )
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『ザ・ファブル』
映画『ザ・ファブル』スペシャルトレーラー(よりドラマチック編)
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『天気の子』
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『メランコリック』
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『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 –永遠と自動手記人形-』
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 - 永遠と自動手記人形 -』予告
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『見えない目撃者』
【本予告】映画 『見えない目撃者』/2019年9月20日(金)公開
【Amazon.co.jp限定】見えない目撃者(Amazon.co.jp限定特典:非売品プレス) [DVD]
- 出版社/メーカー: TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)
- 発売日: 2020/02/05
- メディア: DVD
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『空の青さを知る人よ』
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『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』
昨年2019年はそもそもミニシアター系の邦画をごっそり観れてないんで、その時点で既に邦画の総括になってないわけなんですが、そこから更に絞ってこの10作品。
アレも入れたい、コレも入れたい、という気持ちを断腸の想いで断ち切って選びましたが、『フラグタイム』は最後まで入れたかったなあ……。
そんなわけで、10作品中の過半数、6作品を占めるに至ったアニメ映画の総括から。
巷間言われるように、2016年の『君の名は。』の成功を受けた企画が大量に花咲き、そしてその多くが惨敗したわけですが(爆
それでも、アニメ映画全体で総興収は2016年を越えたわけだから、全面的に失敗ってわけでもないのか。
何にせよ、それを一番良く理解していて、冷静に方向性を調整した新作で独り勝ちしたのが、またしても新海誠『天気の子』というのが、また、もう……(^^;;
そこをどう調整したのか、でひとつ言えるのは、昨日の外国映画部門の『ジョーカー』でも触れた国際映画人としての問題意識の視座で、貧困や格差、環境問題などを作品に積極的に取り込んでいて、カンヌやベルリンなどの欧米の映画賞に出品しても恥ずかしくない作品に仕上げています。
もうひとつは、実写映画の監督なら自然と身につけているであろう「映画の記録性」への意識です。今回の作品で言えば、「2019年の東京」をフィルムに焼き付けて、後世に遺すことを自覚的にやってる節がある。そのおかげで、後世、名画座でこの作品を観る観客は、「2019年の東京は、こんな街だったんだ」と知ることができるわけです。
この両者を兼ね備えた日本のアニメ監督を、自分は寡聞にして知りません。宮崎駿、高畑勲は、国際的な映画の文脈より、自身の創作意欲を優先したし、押井守は知ってても無視している(^^;; 『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』の片渕須直辺りはかなり自覚的っぽいけど、視点は必ずしも「現代」ではない気がする。庵野秀明はどうかな。まあ、総じて、国内のアニメ界隈は、国際映画人としての自意識より内発的な作家性や、逆に職人的な資質を基盤にしている感は強いです。
しかし、実写映画で国際的な映画祭に出入りしている監督さんなら、自然に身につく感覚でもあるんですよね。まあ、現地で監督どおしの交流や、ジャーナリストがそういう所を中心に訊いてくるからということもあるでしょうし。そこで培われた社会との向き合い方が、自ずと作品内容にも反映されてくる。
そしてそうやって撮られた『天気の子』が、ヒットしたという事実は、そうした国際映画人的な価値観が、市井の人々の感性の方向性とも合致している、という証左でもある。
とはいえ、作家・新海誠が内発的に、こうしたテーマ性に目覚めたというより、優等生的に時代のトレンド読んでキャッチアップしただけのようにも見えるので、これが自作以降も引き継がれてゆくのか、今後の作品を観ていかないと何とも言えませんけどねえ……。
それ以外の今年のアニメ映画のトレンドで指摘しておきたいのが、実写俳優の使い方が劇的に上手くなったこと。
これまで、パブリシティのため(TVの人気者が起用されれば、ワイドショーで露出が増える)以上を越えるものは少なく、他のプロの声優さんと並べて聴くと、異物観が強かった。こういうのをアニメファンは嫌いますけど、これはどちらが悪い、という訳でもなく、発声のメソッドが違うからでしょう。
しかし、舞台経験がある俳優さんなら、声優さんとは違うとはいえ、「発声」については決して素人とは言えないわけで、そのポテンシャルを引き出せるかどうかは、実は制作サイドの問題だったのではないか。
それをまざまざと思い知らされたのが、『海獣の子供』で、天才子役と謳われた芦田愛菜が、声優としても天才であると、満天下に思い知らしめました。
非常に哲学性が深く、難解で、ある意味、それゆえ非常に判りやすくもあるこの映画で、モノローグの多いヒロイン役をやり切った彼女に、プロの声優さんも驚愕していましたが、この映画で見事なのは脇のキャラも俳優さんが多かったんですよね。ヒロインの両親が蒼井優と稲垣吾郎とか、森崎ウィンとか富司純子とか、総じて実写俳優比率が高かったんですが、いずれもプロの声優さんとは違う、それぞれの俳優としてのキャリアに裏打ちされた「声」で作品を支えている。
『海獣の子供』は、そもそも「映画」や「アニメ」という表現手法に人々が期待する「誰も見たことのない景色を観せる」という意味においても、2019年を代表すべき作品のひとつではあるでしょう。
……興収、厳しかったですけどねー(-o-;;
つーても、アレをじゃあ、どう売れば良かったのか、と言うと。まあ、『プロメア』のロングランの様子とか見ると、歯を喰いしばってでも劇場に掛け続ければ、口コミでワンチャンあったかなかったか……なかったかなー。うーん。
本当はその文脈からも『プロメア』『空の青さを知る人よ』にも触れておきたいけど、年間総括の記事としては、ランキングから外れますが、深夜アニメの劇場版系作品の話を触れておかねばなあ、と思うので少しだけ。
今年も結構な数の作品が公開され、そこそこの興収上げてロングランになった『冴えない彼女(ヒロイン)の育てかた Fine(フィーネ)』とか、興収も悪くなかったけど何故かハリウッドの脚本家に褒められた(^^;;『この素晴らしい世界に祝福を!紅伝説』とか、クオリティ的にもバカにできない作品がいくつかありました。
……あったんですが、TVシリーズ本編観てるの前提の作品が多く、つか、基本設定の説明どころかそれまでのあらすじすら触れずに、いきなり本編から始まってる作品も多く、これを単品の映画としてどう評価したものか(爆
だから、この劇場版だけいきなりインドに持って行ったり、数十年後に名画座で掛けられたりして、観客に「意味」が通じるのか。(『この素晴らしい世界に祝福を!紅伝説』を褒めた脚本家さんは、TV版本編を知らずに、娘さんに連れられていきなり劇場版を観たそうですが)。
「映画」には、そのパッケージ形態だからこそ持つ一定の普遍性があります。35mmのフィルム・ロールを持ってゆけば、地球の裏側でも映写機とスクリーンさえあれば映画は上映できる。一定の物語形態の枠組みを持つジャンル映画であれば、行ったこともない異国の物語であっても、観客は容易に物語世界に没入できる。
それ故に、国や地域、時代を越え得る……とは思うものの、だとすると、「物語」がTVや原作という背景ありきで、「映画」単品で成立しないこういう作品をどう評価するのか。
「映画」を評価する軸のひとつである「普遍性」を欠いている以上、そこは評価点を下げざる得ないんだけど、端からそういう機能性を企図していないこうした作品群に、既存の「映画」のモノサシを当て嵌めてもしょうがない気もします。
この辺は、マーティン・スコセッシのMCU批判なんかとも繋がってくる話かもしれませんが。
逆に言うと、半世紀前くらいのコンテンツで、「映画」単品では前後の文脈が繋がらなくてジャンク作品の山に埋もれて忘れ去られている作品とか結構ありそうだなー、とか江利チエミの実写版『サザエさん』観ながら考えてたりもするわけですが。
うーん、半世紀後の名画座で、『青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない』の劇場版とかいきなり観せられた観客はどう思うんだろう。まあ、「映画」は、必ずしも公開時の時代性や、監督が狙った文脈通りに観る必要もないんですが。
そこら辺をどう捉えて語ってゆくべきか、というのは、作り手側というより、レビューを書いているこちら側の課題ですよね。
アニメの話はこの辺にしておいて、ようやく実写映画のお話。
2019年の邦画は……と言うか、ここ数年の邦画で重要な動きは、大体、ミニシアター系の小作品で起こっているので、冒頭でも触れたように、そこを丸ごと観落としてる状態で語るのもなーとか思わんでもないですが、まあ、目についた範囲での話として。
まず割とひとつのポイントになったのが『翔んで埼玉』のヒットでしょうか。
21世紀で平成も終わろうという時期に、まさかの魔夜峰央原作映画て、と半笑いで観に行ったら、骨格は意外としっかりした革命劇だったという(^^;; その骨格の上に、虚構性の極みのキャラと物語を打ち出して、映画一本押し切るというのを、アニメじゃなくて実写でやるというのは画期的で、邦画でこれやってもいいんだ、というのが定着した一年だったのではないでしょうか。
まあ、強い虚構性の邦画は、実写版『銀魂』とかの先行する成功例もあるし、そもそも『翔んで埼玉』の監督さんは実写版『テルマエ・ロマエ』の監督さんでもあるので、2019年に突然出てきた動きでもないんですが。年末に公開された『屍人荘の殺人』なんかもそのライン上にあるのかな。この路線は、邦画のエンタメ性のひとつの軸になり得ると思いますので、2020年も振り切った作品が登場することを期待します。
インディーズ系は、これもほとんど作品数を観れてないんですが、『メランコリック』は素晴らしかったですね。
日本で『ジョン・ウィック』やるとこうなるのか、という(^^;;
勿論、インディーズですから低予算は低予算で、ショボいとこはやはりショボいんですが、地方都市の寂れた銭湯を拠点にする殺し屋世界という変な世界観がしっかり確立していて、観ていて破綻を感じない。
そのハードな世界の中心に、ボンクラな主人公を置いて、最終的に主人公のボンクラ性が非情な世界を塗り替える、というね。
この制作チームには早くメジャー規模の予算を与えて、どんどん作品を撮ってほしいです。
最後に吉岡里帆主演で韓国映画のリメイク作品の『見えない目撃者』。
元々韓国映画で、2015年に中国映画としてリメイクされ、さらに昨年邦画としてリメイクされた作品です。
ただ原作の基本プロットは継承しつつ、2019年の邦画として細部まで練り直され、単純なローカライズでは済まない映画に仕上がっていました。邦画刑事ドラマの文脈と現代社会の格差問題を組み込むことでテーマ性が深化して、「映画」としての格が一段上がった風格すらありましたからね。
実はこれと同じことが、中国映画原作で、同じく昨年韓国映画としてリメイクされた『毒戦 BELIEVER』でも見られた現象です。単純に脚本焼き直してローカライズ一丁あがりではない、現地映画人の意地と矜恃を込めて、よりテーマを深化させ、成熟させた作品として世に問う。こうしたローカライズやリメイクなら大歓迎です。
実はこの映画の監督の森淳一の前作『リトル・フォレスト』も韓国でリメイクされているんですよね。
日韓関係はご存知の通りの有様ですが、こうした日中韓の多国籍な相互交流は、今年もより深まってゆくと思いますし、そう在れかしとも思います。
2019年の邦画については、もうちょっと触れておきたい作品や動きもあるんですが、さすがに長くなりすぎなのでこの辺で。
昨年も豊かな一年でしたが、それを踏まえての2020年の邦画も、可能性に溢れた一年となりますように。